中心的な考え方
古典的な労働市場モデルでは、失業者がより低い賃金で働くと申し出れば賃金が下がり、失業は解消されるはずです。では、なぜ企業はそうした申し出を受け入れないのでしょうか。リンドベックとスノーワー(1986年、1988年)は、既存の従業員を新しい人に入れ替える際にかかる「労働移動費用」に注目しました。採用と選考、解雇手当と法的手続き、新人研修、さらには既存従業員が新人に協力しなかったり嫌がらせをしたりする行為まで、すべてが費用になります。インサイダーはこの費用の分だけアウトサイダーより高い賃金を求めても解雇されないため、労働組合などを通じてこのレントを賃金として受け取ります。アウトサイダーは喜んでより低い賃金で働こうとしても雇われないので、これは「非自発的失業」の一つの説明になります。ソロー(1985年)も同じ時期に賃金決定におけるインサイダーの役割を分析しました。
履歴効果と欧州の失業
ブランシャールとサマーズ(1986年)はこの理論をマクロ経済に広げ、1980年代の欧州の高失業がなぜ景気回復後も下がらなかったのかを説明しました。不況で解雇された人はアウトサイダーになり、残ったインサイダーは自分たちの雇用だけを守る水準で賃金を決めるため、雇用が回復しません。このように一時的なショックが失業率を恒久的に押し上げる現象を「履歴効果(ヒステリシス)」といい、失業が単一の自然失業率に戻るという考えに疑問を投げかけました。長期失業者が技能と求職意欲を失ってアウトサイダーの競争圧力がさらに弱まることも、履歴効果を強めます。この見方では雇用保護の強い制度が失業の持続性を高めうるとされ、リンドベックとスノーワー(2001年)は年功ルールや解雇費用といった制度がインサイダーの力を強めると整理しました。
他の理論との比較と二極化研究
この理論は市場均衡より高い賃金を説明する点で効率賃金理論(シャピロとスティグリッツ、1984年)と似ていますが、高賃金の原因を企業の生産性上の動機ではなくインサイダーの交渉力に求める点が異なります。ドーリンジャーとピオレ(1971年)の内部労働市場や二重労働市場論ともつながります。その後の研究はこの枠組みで正規雇用と非正規雇用の分断を分析しました。ブランシャールとランディエ(2002年)は、フランスの有期契約の拡大が正規雇用の保護をそのままにしてアウトサイダーだけを増やしたと論じ、ベントリラほか(2012年)はスペインの労働市場を代表例として扱いました。政治学ではルエダ(2005年)とエメネガーほか(2012年)が、政党と福祉国家がインサイダーとアウトサイダーの利益をどう異なって代表するかを研究し、「労働市場の二極化」をめぐる議論を主導しました。
よくある質問
- インサイダー・アウトサイダー理論を簡単に言うと?
- すでに働いている人は企業が人を入れ替える費用のおかげで高い賃金を得られ、そのため失業者はより安く働くと言っても雇われにくいという理論です。
- 履歴効果とは何ですか?
- 不況などの一時的なショックで上がった失業率が、ショックが消えた後も元の水準に戻らず高止まりする現象です。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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