概念とミクロ的基礎
シェシンスキーとワイス(1977年)は、価格の調整に固定費用がかかるとき、インフレのもとで企業は毎回少しずつ価格を変えるのではなく、実質価格が一定の幅を外れたときにだけまとめて変える(S, s)ルールに従うことを示しました。これは、価格調整が時間ではなく経済の状態によって決まる「状態依存型の価格設定」の出発点となりました。1970年代の合理的期待革命の後、価格がなぜ硬直的なのかを合理的な企業の行動として説明することがマクロ経済学の課題となり、メニューコストはニューケインジアン経済学がこの課題に答える中心的な道具となりました。ブラインダーら(1998年)がアメリカの企業に聞き取り調査をした結果でも、価格調整の費用は価格の硬直性の理由の一つに挙げられました。
小さな費用と大きな景気循環
マンキュー(1985年)とアカロフとイエレン(1985年)は、独占的競争市場では利潤関数が最適価格の近くで平らなため、個々の企業にとって価格を変えないことで生じる損失はごく小さいことに注目しました。そのため小さなメニューコストだけでも企業が価格を据え置くことが合理的になりえますが、すべての企業がそうすると経済全体の産出や厚生には大きな影響が生じえます。ブランシャールと清滝(1987年)は独占的競争のもとでこうした決定が経済全体に及ぼす外部効果を分析し、ボールとローマー(1990年)は実質硬直性があるとき、小さな名目の摩擦が貨幣の非中立性を大きく増幅しうることを示しました。この議論はフィリップス曲線のミクロ的基礎や金融政策の効果の分析へとつながりました。
理論的な論争と実証研究
キャプリンとスパルバー(1987年)は、特定の条件のもとの状態依存型価格設定モデルでは、個々の価格は硬直的でも貨幣が総産出に影響を与えない場合があるという結果を示しました。ゴロソフとルーカス(2007年)も、メニューコストモデルをミクロデータに合わせると、大きな価格変更を望む企業が先に調整する「選択効果」のために、貨幣ショックの実体効果が小さくなると報告しました。一方、ナカムラとステインソン(2008年)は、一時的な特売を除いた通常価格は思ったより変更の頻度が低いことなど、価格に関する五つの事実をまとめ、ミドリガン(2011年)は、複数の製品を扱う企業のメニューコストの構造を反映すると貨幣ショックの実体効果が再び大きくなることを示しました。レヴィら(1997年)はアメリカの大手スーパーマーケット・チェーンの実際のメニューコストを測定し、売上の約0.7%に達すると報告し、ビルズとクレノウ(2004年)はアメリカの消費者物価データから、価格は平均すると考えられていたより頻繁に変わると報告しました。これらの研究は、ルーカス批判以後のミクロ的基礎をもつマクロモデル研究の重要な流れをなしています。
よくある質問
- メニューコストを簡単に言うと?
- レストランが価格を変えるにはメニュー表を印刷し直さなければならないように、価格を変えるには費用と手間がかかります。そのため原価が少し変わっても企業がすぐには価格を変えない現象を説明する概念です。
- メニューコストはなぜマクロ経済で重要なのですか?
- 企業が価格をすぐに調整しなければ、貨幣量や金利の変化は物価だけでなく生産や雇用にも影響を与えうるからです。そのためメニューコストは、金融政策が短期的に実体経済を動かす理由を説明するニューケインジアン経済学の中心的な根拠として使われています。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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