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中所得国の罠

📈 経済学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
中所得国の罠とは、低賃金と模倣技術によって急成長し中所得に達した国が、賃金上昇で価格競争力を失う一方で先進国並みのイノベーション能力を備えられず、長期にわたって高所得国になれない現象を指します。世界銀行のギルとカラスが2007年に初めて提示しました。
目次
  1. 1. 概念の登場
  2. 2. なぜ成長が鈍るのか
  3. 3. 論争と最近の議論
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

概念の登場

世界銀行のギルとカラス(2007年)は『東アジアのルネサンス』で、中所得に達した多くの国がそれまでの急成長を維持できないと指摘し、「中所得国の罠」という言葉を使いました。1960年に中所得だった約100か国のうち、2008年までに高所得国になったのは韓国、台湾、シンガポールなど十数か国にとどまったという統計がよく引用されます。一方、ラテンアメリカや中東の多くの国は数十年にわたり中所得にとどまりました。この概念は中国、マレーシア、タイなど新興国の長期見通しを論じる際に、政策論議で広く使われるようになりました。

なぜ成長が鈍るのか

初期の急成長は、ルイス(1954年)が述べた農村の余剰労働が生産性の高い製造業へ移る過程と、先進国の技術を導入し模倣するキャッチアップによって説明されます。しかし余剰労働が尽きる「ルイスの転換点」に達すると賃金が上がり、模倣できる技術との差も縮まるため、同じやり方での成長は難しくなります。アセモグル、アギオン、ジリボッティ(2006年)は、技術フロンティアに近づくほど投資主導から革新主導の戦略へ転換しなければならず、転換に失敗すると成長が停滞するとモデル化しました。アイケングリーン、朴、申(2012年、2014年)は、1人当たり所得が約1万〜1万1千ドルと1万5千〜1万6千ドル(2005年購買力平価)の付近で成長減速が起きやすく、中等・高等教育の比率と高技術輸出の比率が高い国ほど減速しにくいと報告しました。ハウスマン、ファン、ロドリック(2007年)は、何を輸出するかがその後の成長に影響することを示しました。

論争と最近の議論

罠が本当に存在するかについては反論も多くあります。プリチェットとサマーズ(2014年)は、高成長がいずれ平均へ回帰するのは所得水準に関係なく一般的な現象だとし、イムとローゼンブラット(2015年)は中所得国が他の所得層より特に停滞しやすいという証拠は弱いとまとめました。一方、アイヤーほか(2018年)は中所得で成長減速の確率が高いという結果を示しました。ドナーとシュナイダー(2016年)は、教育・技能の向上や研究開発投資に必要な改革が既得権益によって阻まれる政治経済的要因を強調しました。世界銀行(2024年)は『世界開発報告』で、投資、技術導入、イノベーションを段階的に組み合わせる「3i」戦略を論じました。このテーマは人的資本や内生的成長理論とともに、開発経済学の中心的な論点として扱われています。

よくある質問

中所得国の罠を簡単に言うと?
安い労働力と模倣で急成長した国が、賃金が上がった後も独自のイノベーション能力を持てず、中所得の水準に長くとどまる現象です。
中所得国の罠を抜け出した国はありますか?
韓国、台湾、シンガポールがよく挙げられ、研究者は教育の拡大、技術の高度化、輸出構造の転換が同時に進んだことを共通要因として分析しています。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Gill, I. S., & Kharas, H. (2007). An East Asian Renaissance: Ideas for Economic Growth. Washington, DC: World Bank.
  2. Eichengreen, B., Park, D., & Shin, K. (2012). When fast-growing economies slow down: International evidence and implications for China. Asian Economic Papers, 11(1), 42–87.
  3. Eichengreen, B., Park, D., & Shin, K. (2014). Growth slowdowns redux. Japan and the World Economy, 32, 65–84.
  4. Lewis, W. A. (1954). Economic development with unlimited supplies of labour. Manchester School, 22(2), 139–191.
  5. Felipe, J., Abdon, A., & Kumar, U. (2012). Tracking the middle-income trap: What is it, who is in it, and why? Levy Economics Institute Working Paper No. 715.
  6. Aiyar, S., Duval, R., Puy, D., Wu, Y., & Zhang, L. (2018). Growth slowdowns and the middle-income trap. Japan and the World Economy, 48, 22–37.
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  8. Pritchett, L., & Summers, L. H. (2014). Asiaphoria meets regression to the mean. NBER Working Paper No. 20573.
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  10. Doner, R. F., & Schneider, B. R. (2016). The middle-income trap: More politics than economics. World Politics, 68(4), 608–644.
  11. Hausmann, R., Hwang, J., & Rodrik, D. (2007). What you export matters. Journal of Economic Growth, 12(1), 1–25.
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  13. World Bank. (2024). World Development Report 2024: The Middle-Income Trap. Washington, DC: World Bank.

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この記事は2026年10月26日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。