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分子進化の中立説

🔬 自然科学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
分子進化の中立説は、DNAやタンパク質のレベルで起こる進化的変化と遺伝的変異の大部分が、自然選択ではなく、生存と繁殖に有利でも不利でもない中立な突然変異が偶然の遺伝的浮動によって集団に固定されることで生じるとする理論です。木村資生が1968年に提唱しました。
目次
  1. 1. 理論の誕生
  2. 2. 中心的内容
  3. 3. 論争と現代の評価
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

理論の誕生

1960年代、タンパク質のアミノ酸配列比較と電気泳動技術が発展し、分子レベルの変異を直接測定できるようになりました。ズッカーカンドルとポーリング(1965年)はヘモグロビンなどのアミノ酸置換が時間にほぼ比例して一定の速度で蓄積するという「分子時計」を提唱し、ルウォンティンとハビー(1966年)は自然集団の遺伝的多型が予想よりはるかに多いことを示しました。国立遺伝学研究所の木村資生は1968年に『ネイチャー』で、この速度の置換がすべて自然選択によるなら集団は耐えられない「遺伝的荷重」を負うと計算し、分子の変化の大部分は選択的に中立だと主張しました。翌年キングとジュークス(1969年)も「非ダーウィン的進化」で同じ主張を独立に行いました。

中心的内容

中立説によれば、新しい突然変異の大部分は有害か中立であり、有害なものは純化選択で速やかに除かれます。残った中立突然変異の運命は遺伝的浮動、すなわち世代ごとにどの対立遺伝子が偶然多く伝わるかで決まります。中立突然変異が集団に固定される確率は初期頻度1/(2N)で、世代あたり2Nμ個の新しい突然変異が生じるので、置換速度はk = 2Nμ × 1/(2N) = μとなります。つまり分子進化の速度は集団の大きさに関係なく中立突然変異率に等しくなります。これが分子時計の理論的根拠です。また機能的制約の強い部位ほど中立突然変異の割合が低く進化が遅いと予測され、実際に同義置換や偽遺伝子は速く、ヒストンのような中核タンパク質は遅く進化します。多型は固定過程の一時的な段階と解釈されます(木村と太田、1971年)。このモデルはハーディー・ワインベルグ平衡とともに集団遺伝学の帰無仮説の役割を果たします。

論争と現代の評価

中立説はダーウィン主義を否定すると誤解され、淘汰論者との激しい論争を招きました。しかし木村は形態と適応の進化は自然選択が導くことを認めており、分子レベルの変異の大部分は適応と無関係だと述べたにすぎません。太田朋子(1973年、1992年)はわずかに有害な突然変異が小さな集団では浮動によって固定されうるという「ほぼ中立説」を提示し、集団の大きさによる進化速度の違いを説明しました。マクドナルドとクライトマン(1991年)は種内多型と種間の違いを比較する検定でショウジョウバエの遺伝子に適応進化の痕跡を見出しました。クライトマン(1996年)の「中立説は死んだ、中立説万歳」という評価が生まれました。カーンとハーン(2018年)はゲノムデータに選択の痕跡が広く見られるとして中立説の支配性に疑問を呈しましたが、ジェンセンら(2019年)は中立説は選択を検出するための不可欠な帰無仮説だと反論しました。

よくある質問

中立説を簡単に言うと?
DNAレベルの変化の大部分は生存に有利だからではなく、有利でも不利でもない変異が偶然広がることで起こるという理論です。
中立説は自然選択を否定するのですか?
いいえ。形態や適応の進化は自然選択が導くと認めたうえで、分子レベルの変化の大部分は中立で偶然によって固定されると考えたものです。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Kimura, M. (1968). Evolutionary rate at the molecular level. Nature, 217(5129), 624–626.
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  5. Ohta, T. (1992). The nearly neutral theory of molecular evolution. Annual Review of Ecology and Systematics, 23, 263–286.
  6. Zuckerkandl, E., & Pauling, L. (1965). Evolutionary divergence and convergence in proteins. In V. Bryson & H. J. Vogel (Eds.), Evolving Genes and Proteins (pp. 97–166). New York: Academic Press.
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  9. Kreitman, M. (1996). The neutral theory is dead. Long live the neutral theory. BioEssays, 18(8), 678–683.
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  11. Kern, A. D., & Hahn, M. W. (2018). The neutral theory in light of natural selection. Molecular Biology and Evolution, 35(6), 1366–1371.
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この記事は2026年10月26日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。