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節約のパラドックス

📈 経済学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
節約のパラドックス(倹約のパラドックス)とは、個々の家計にとっては望ましい貯蓄の増加も、全員が同時に行うと消費と総需要が減って国民所得が減少し、その結果として社会全体の貯蓄は増えないか、かえって減ることがあるというマクロ経済学の命題です。ジョン・メイナード・ケインズ(1936年)の有効需要の理論によって広く知られ、部分にとって合理的なことが全体にとって合理的とは限らない「合成の誤謬」の代表例とされます。
目次
  1. 1. 起源と思想史的な背景
  2. 2. ケインズの論理
  3. 3. 批判、限界、現代における再評価
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

起源と思想史的な背景

貯蓄が行き過ぎると経済に害をもたらしうるという考えは古くからありました。バーナード・マンデヴィル(1714年)の『蜂の寓話』は、奢侈と消費こそが繁栄を生むという風刺を描き、マルサス(1820年)は「有効需要」の不足の危険を警告しました。ママリーとホブソン(1889年)は、過剰な貯蓄が過少消費と不況をもたらすと主張しました。しかし、当時主流だったセイの法則は、供給はそれ自身の需要を生み出し、貯蓄は自動的に投資につながると考えていたため、こうした主張は傍流にとどまりました。

ケインズの論理

ケインズ(1936年)は『一般理論』で、貯蓄と投資は異なる主体によって異なる動機で決まると論じました。家計が所得のより多くを貯蓄しようとすると消費が減り、企業の売上と生産が落ち込んで雇用と所得が減少します。カーン(1931年)が示した乗数の過程を通じて、所得は当初の消費の減少よりも大きく減ることがあります。均衡では貯蓄は投資と等しくならなければならないため、投資が増えなければ社会全体の貯蓄も増えず、所得の減少に応じて投資が減れば、総貯蓄はかえって減少します。サミュエルソン(1948年)の教科書は、これを「節約のパラドックス」という名で紹介し、広く知らしめました。

批判、限界、現代における再評価

ロバートソン(1933年)やモディリアーニ(1944年)らは、利子率と価格が柔軟に調整されれば貯蓄の増加は投資の増加につながりうると考え、長期的には高い貯蓄が資本蓄積と成長を助けるという点もよく指摘されます。フリードマン(1957年)の恒常所得仮説やバロー(1974年)のリカードの等価定理をめぐる議論は、消費と貯蓄の決定をより長期的な視点から捉えました。それでも2008年の世界金融危機の後、このパラドックスは再び注目を集めました。クー(2009年)は、企業や家計が債務の返済に専念する「バランスシート不況」を提示し、エガートソンとクルーグマン(2012年)は、債務削減と流動性の罠が重なると節約のパラドックスが強く現れうるというモデルを示しました。ミアンとスーフィ(2014年)は、家計債務と消費の減少が不況を深めた過程を実証的に分析しています。

よくある質問

節約のパラドックスを簡単に説明すると?
一人が支出を切り詰めればその人の貯蓄は増えますが、全員が同時に支出を減らすと他の人の所得が減り、結局社会全体の貯蓄は増えないことがある、ということです。
節約のパラドックスはいつも成り立つのですか?
いいえ。主に景気後退期のように需要が不足し、金利の調整が難しい状況で目立つもので、長期的には貯蓄が投資と成長を支えるという反論もあります。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Keynes, J. M. (1936). The General Theory of Employment, Interest and Money. London: Macmillan.
  2. Mandeville, B. (1714). The Fable of the Bees: or, Private Vices, Publick Benefits. London: J. Roberts.
  3. Malthus, T. R. (1820). Principles of Political Economy. London: John Murray.
  4. Mummery, A. F., & Hobson, J. A. (1889). The Physiology of Industry. London: John Murray.
  5. Robertson, D. H. (1933). Saving and hoarding. Economic Journal, 43(171), 399–413.
  6. Samuelson, P. A. (1948). Economics: An Introductory Analysis. New York: McGraw-Hill.
  7. Kahn, R. F. (1931). The relation of home investment to unemployment. Economic Journal, 41(162), 173–198.
  8. Modigliani, F. (1944). Liquidity preference and the theory of interest and money. Econometrica, 12(1), 45–88.
  9. Friedman, M. (1957). A Theory of the Consumption Function. Princeton: Princeton University Press.
  10. Barro, R. J. (1974). Are government bonds net wealth? Journal of Political Economy, 82(6), 1095–1117.
  11. Eggertsson, G. B., & Krugman, P. (2012). Debt, deleveraging, and the liquidity trap: A Fisher–Minsky–Koo approach. Quarterly Journal of Economics, 127(3), 1469–1513.
  12. Koo, R. C. (2009). The Holy Grail of Macroeconomics: Lessons from Japan's Great Recession. Singapore: Wiley.
  13. Mian, A., & Sufi, A. (2014). House of Debt. Chicago: University of Chicago Press.

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この記事は2026年10月26日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。