命題の内容と起源
リカードの等価定理(中立命題)は、政府が支出を税で賄っても国債で賄っても経済に与える効果は同じだという命題です。名称は19世紀英国の経済学者デヴィッド・リカードに由来します。彼は1820年の「公債制度論」で、戦費を税で払っても国債で払っても理論的には同じだと考えましたが、人々は実際にはそれほど合理的ではないとして等価性を疑いました。そのためジェームズ・ブキャナン(1976年)やオドリスコル(1977年)は、リカード自身は「非等価論者」だったと指摘しています。現代的な定式化はロバート・バロー(1974年)の「国債は純資産か?」です。政府が今日減税して国債を発行すれば、将来その元利を返すために増税しなければならないので、合理的な家計は減税分を消費せずに貯蓄して将来の税に備えます。したがって国債は家計の純資産ではなく、民間貯蓄の増加が政府貯蓄の減少をちょうど相殺し、国民貯蓄、金利、総需要は変わりません。これは減税が消費を増やすというケインズ経済学の見方と真っ向から対立します。
成立条件
バローの結論が成り立つには強い仮定が必要です。第一に、家計が合理的期待をもち、政府の予算制約を理解していること。第二に、将来の税が自分の世代ではなく子の世代に課されるとしても、親が子の効用を考慮して遺産を残す「王朝的」な利他心をもつこと。バローはこれによって有限の生涯の問題を解決しました。第三に、家計が望むだけ借り入れや貯蓄ができ、流動性制約がないこと。第四に、税が一括税であること。所得税のように行動を変える税であれば、時点によってゆがみが異なります。第五に、政府支出の経路が変わらないこと。バロー(1989年)はこれらの仮定が完全でなくても等価性はよい近似になりうると主張し、バーンハイム(1989年)は逆に、現実的な条件のもとでは赤字が国民貯蓄を減らすと反論しました。
批判と実証
オリヴィエ・ブランシャール(1985年)は、人々の生涯が有限で遺産動機が弱ければ将来の税の一部が現在の世代から逃れるため国債が純資産になるというモデルを示し、ポターバとサマーズ(1987年)はこの効果がかなり大きくなりうると試算しました。流動性制約のある家計は減税分をすぐに消費する可能性が高くなります。実証研究の結果は分かれています。シーター(1993年)は等価定理はおおむねよい近似だと結論づけましたが、リッチウティ(2003年)の概観は結果が手法や国によって異なるとしました。シャピロとスレムロッド(2003年)は、2001年の米国の税還付の際、回答者の多くが還付金を消費よりも貯蓄や借金の返済に充てると答えたと報告し、ジョンソン、パーカー、スーレレス(2006年)は家計が還付金の20〜40%を3か月以内に非耐久財の消費に使ったことを発見しました。グレゴリー・マンキュー(2000年)は、将来を見通す貯蓄者と手元の所得を使う消費者の両方からなる「貯蓄者・消費者」モデルを提案しました。この定理は政策無効命題と同様、期待が政策効果を弱めうることを示す代表例です。
よくある質問
- リカードの等価定理をわかりやすく言うと?
- 政府が今減税して借金をしても、人々がその借金は将来の税で返さなければならないと知って減税分を貯蓄すれば、消費は増えないということです。
- リカードの等価定理は現実に成り立ちますか?
- 完全には成り立たないという見方が多数です。流動性制約、有限の生涯、近視眼的な消費のため、減税分のかなりの部分が消費に回るという実証結果があります。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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