キーとフィオリーナの理論
キー(1966年)はアメリカ大統領選挙を分析し、「有権者は愚かではない」と主張しました。有権者は複雑な政策をすべて知らなくても、政権が国をうまく導いたかどうかは判断でき、それに応じて支持を変えるというのです。フィオリーナ(1981年)はこれを体系化し、有権者は政府の成果についての評価を積み重ねていき、その累積した評価が政党帰属意識を形づくると説明しました。政策の中身を一つひとつ吟味せず結果だけを見るやり方は、情報を得るコストを節約する近道でもあるため、合理的無知の状態にある有権者にも役立ちます。
選挙による統制
フェアジョン(1986年)は、選挙を有権者が政治家を統制する仕組みとみるモデルをつくりました。有権者はプリンシパル、政治家はエージェントであり、有権者が「一定以上の成果を上げれば再選させる」という基準を決めておけば、政治家はその基準を超えようと努力します。これはエージェンシー理論を選挙に当てはめたものです。業績投票の研究の多くは、経済の成果の評価を扱う経済投票と重なります。政府が選挙の直前に景気を押し上げようとするという政治的景気循環の理論も、有権者が直近の成果で判断するという前提に依拠しています。
有権者の判断の限界と批判
ヒーリーら(2010年)は、選挙の直前に地元の大学アメフトチームが勝つと現職者の得票が上がることを示し、有権者が政府と無関係な出来事にも反応すると主張しました。ヒューバーら(2012年)は実験で、有権者が任期全体よりも最後の時期の成果に重みを置きすぎ、政府が統制できない運の要素まであわせて評価することを示しました。エイカンとバーテルズ(2016年)は、干ばつや洪水のような災害についてまで政権を罰する「盲目的な回顧」を根拠に、選挙が責任ある政治を保障するという通念に疑問を投げかけました。一方でヒーリーとマルホトラ(2013年)は、災害対応がうまければかえって報われるなど、有権者がある程度合理的に判断しているという証拠もあわせて整理しました。
よくある質問
- 業績投票を簡単に言うと?
- 選挙のとき、これからの約束よりもこれまで政府がどれだけうまくやったかを見て、うまくやっていれば再び選び、そうでなければ交代させる投票の仕方です。
- 業績投票の限界は何ですか?
- 有権者が直近の成果にだけ過剰に反応したり、天候やスポーツの結果のように政府が責任を負えないことまで政府のせいにしたりしうる点が指摘されています。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Key, V. O., Jr. (1966). The Responsible Electorate: Rationality in Presidential Voting, 1936–1960. Cambridge, MA: Belknap Press of Harvard University Press. 有権者を「それなりに合理的な審判者」とみた古典で、業績投票の概念の出発点を見るのに参考になります。
- Fiorina, M. P. (1981). Retrospective Voting in American National Elections. New Haven, CT: Yale University Press. 業績評価が政党帰属意識に積み重なるというモデルを示した本で、理論の体系的な整理を見るのに役立ちます。
- Ferejohn, J. (1986). Incumbent performance and electoral control. Public Choice, 50(1–3), 5–25. 選挙を政治家を統制する仕組みとみたプリンシパル=エージェント・モデルで、業績投票の理論的根拠を見るのに参考になります。
- Healy, A. J., Malhotra, N., & Mo, C. H. (2010). Irrelevant events affect voters' evaluations of government performance. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(29), 12804–12809. 大学アメフトの勝敗が現職の得票に影響することを示した研究で、有権者の判断の限界を見るのに役立ちます。
- Huber, G. A., Hill, S. J., & Lenz, G. S. (2012). Sources of bias in retrospective decision making: Experimental evidence on voters' limitations in controlling incumbents. American Political Science Review, 106(4), 720–741. 有権者が直近の成果に重みを置きすぎることを示した実験で、業績判断の偏りを見るのに参考になります。
- Healy, A., & Malhotra, N. (2013). Retrospective voting reconsidered. Annual Review of Political Science, 16, 285–306. 業績投票の研究全体を整理したレビューで、論点と研究の流れを一望するのに役立ちます。
- Achen, C. H., & Bartels, L. M. (2016). Democracy for Realists: Why Elections Do Not Produce Responsive Government. Princeton, NJ: Princeton University Press. 干ばつやサメの襲撃のような出来事まで罰する「盲目的な回顧」を主張した本で、批判的な見方を知るのに参考になります。
