古典的研究と基本的な考え
クレイマー(1971年)は1896年から1964年までのアメリカ下院選挙を分析し、所得が増えた年には政権党の得票が上がり、減った年には下がることを統計で示しました。これは、有権者が政府の経済的な成果によって賞罰を与えるという業績投票の代表的なかたちです。その後、失業率や物価が政府の支持率と選挙結果に影響するという研究が相次ぎました。ルイス=ベック(1988年)は、西欧の主要な民主国家でも似た傾向が見られることを確かめました。政府が選挙の前に景気を押し上げようとするという政治的景気循環の理論も、こうした経済投票を前提としています。
何を見て判断するのか
キンダーとキーウィット(1981年)は、有権者が「自分の家計がよくなったか」よりも「国の経済がよくなったか」を見て投票する傾向が強いことを示し、これを「社会志向投票」と呼びました。自分の暮らし向きだけを見る「個人志向投票(ポケットブック投票)」よりも、国の経済の評価の影響が大きいということです。またマッキューエンら(1992年)は、有権者が過去の経済の成果だけでなく将来の経済の見通しにも反応することを示しました。そのため経済投票の研究は、回顧的評価と展望的評価、個人志向と社会志向という二つの軸で整理されます。
制度的文脈と限界
パウエルとウィッテン(1993年)は、単独政党政権のように責任の所在がはっきりした国では経済投票が強く、連立政権や分割政府のように責任が分散した国では弱いという「責任の明確さ」仮説を示しました。これは、政府が責任をあいまいにしようとする非難回避の戦略ともつながります。ダッチとスティーブンソン(2008年)は、開かれた経済では国内の政府が統制できない部分が大きくなり、経済投票が弱まると分析しました。ルイス=ベックとパルダム(2000年)は、経済投票は確かに存在するものの、時期や国によって不安定だと整理しました。また、党派性によって同じ経済が異なって評価されるという知見は、経済の評価が投票の原因なのか結果なのかという論争を生みました。
よくある質問
- 経済投票を簡単に言うと?
- 経済がよければいまの政府を再び選び、悪ければ別の政党を選ぶという傾向のことです。有権者が経済の成果で政府を評価するという理論です。
- 社会志向投票と個人志向投票はどう違いますか?
- 個人志向投票は自分の家計の状況を見て投票すること、社会志向投票は国全体の経済状況を見て投票することです。研究では、おおむね社会志向投票の影響のほうが大きく現れます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Kramer, G. H. (1971). Short-term fluctuations in U.S. voting behavior, 1896–1964. American Political Science Review, 65(1), 131–143. 経済状況と議会選挙の得票の関係を初めて統計で示した古典で、経済投票研究の出発点を見るのに参考になります。
- Kinder, D. R., & Kiewiet, D. R. (1981). Sociotropic politics: The American case. British Journal of Political Science, 11(2), 129–161. 家計よりも国の経済の評価が投票にとってより重要だという「社会志向投票」を示した論文で、中心的な論点を見るのに役立ちます。
- Lewis-Beck, M. S. (1988). Economics and Elections: The Major Western Democracies. Ann Arbor: University of Michigan Press. 西欧の主要な民主国家を比較した代表的な著書で、国による経済投票の違いを見るのに参考になります。
- MacKuen, M. B., Erikson, R. S., & Stimson, J. A. (1992). Peasants or bankers? The American electorate and the U.S. economy. American Political Science Review, 86(3), 597–611. 有権者が過去よりも将来の経済見通しに反応することを示した研究で、展望的な経済投票を見るのに役立ちます。
- Powell, G. B., Jr., & Whitten, G. D. (1993). A cross-national analysis of economic voting: Taking account of the political context. American Journal of Political Science, 37(2), 391–414. 責任の明確さによって経済投票の強さが変わることを示した研究で、制度的文脈の重要性を見るのに参考になります。
- Lewis-Beck, M. S., & Paldam, M. (2000). Economic voting: An introduction. Electoral Studies, 19(2–3), 113–121. 経済投票の主な知見と不安定さを短く整理した文章で、入門として読むのに役立ちます。
- Lewis-Beck, M. S., & Stegmaier, M. (2000). Economic determinants of electoral outcomes. Annual Review of Political Science, 3, 183–219. 経済投票研究の全体を整理した代表的なレビューで、研究の流れと論点を一望するのに参考になります。
- Duch, R. M., & Stevenson, R. T. (2008). The Economic Vote: How Political and Economic Institutions Condition Election Results. Cambridge: Cambridge University Press. 制度とグローバル化が経済投票をどう変えるかを扱った本で、比較研究の新しい枠組みを見るのに役立ちます。
