誕生の背景
ロイの適応モデルは、聖ヨセフ修道会の修道女でもある看護理論家カリスタ・ロイ(1939– )が築いた概念モデルです。1964年、UCLAの修士課程で指導教員のドロシー・ジョンソンから「看護の目標を定義する概念モデルをつくりなさい」という課題を与えられたロイは、小児病棟での経験を思い起こしました。入院という大きな変化のなかでも、子どもたちは驚くほどしなやかに回復し、適応していたのです。
彼女は心理物理学者ハリー・ヘルソンの順応水準理論とベルタランフィの一般システム理論を土台にこの着想を練り、1970年に『Nursing Outlook』誌で発表しました。マウント・セント・メアリーズ大学でカリキュラムの枠組みとして用いながら改良を重ね、『ロイ適応看護モデル』は1984年から2009年まで版を重ねて、個人だけでなく集団も扱えるよう拡張されました。
刺激と対処機制
ロイは人間を、入力(刺激)と出力(行動)をもつ適応システムと見なしました。刺激は、いま直面している焦点刺激(例:術後の痛み)、その影響を強めたり和らげたりする関連刺激(例:睡眠不足、家族の支え)、影響していそうだが確認できていない残存刺激(例:過去の入院体験からくる思い込み)に分けられます。これらが個人の適応レベルをつくり、システムは調節器(神経・内分泌・化学的反応)と認知器(知覚・学習・判断・情動)という二つの対処機制で反応します。調節器の働きは、セリエの汎適応症候群とあわせて学ぶと理解が深まります。
4つの適応様式
対処の結果は4つの様式の行動として現れます。生理的様式は酸素化・栄養・排泄・活動と休息・防衛・感覚・体液と電解質・神経・内分泌機能、自己概念様式は身体的自己と人格的自己、役割機能様式は社会のなかで担う役割の遂行、相互依存様式は愛情・尊敬・価値をやりとりする関係を指します。反応は生存・成長・生殖・成熟を支える適応反応か、そうでない非効果的反応かで評価され、看護は刺激を調整して適応反応を増やす働きかけだとされます。
6段階の看護過程
ロイの看護過程は、行動のアセスメント→刺激のアセスメント→看護診断→目標設定→介入→評価の6段階です。乳房切除術後の患者であれば、生理的様式(創部痛、リンパ浮腫のリスク)、自己概念(ボディイメージの変化)、役割機能(職場復帰への不安)、相互依存(パートナーとの関係)を順にアセスメントし、ボディイメージの変化を焦点刺激、情報不足や家族の支えを関連刺激として、刺激を調整する介入を計画できます。刺激を「看護師が働きかけられる対象」としてとらえる点が、実践で最も役立つところです。
評価と限界
看護診断と介入を体系的に結びつけ、多くの研究尺度を生み出したことから、米国・カナダ・韓国・日本などで教育課程や研究の枠組みとして広く用いられています。一方、概念が多く、焦点・関連・残存刺激の区別があいまいであること、人間を外的刺激に反応する存在と見る機械論的な色合いがあることが批判されます。同じくシステム論に立つニューマンのシステムモデルと比べると、それぞれの持ち味がよく見えてきます。
関連項目
看護理論 · ジョンソンの行動システムモデル · ニューマンのシステムモデル · ヘンダーソンの14の基本的ニード · 汎適応症候群
よくある質問
- 焦点刺激と関連刺激はどう見分けますか?
- 反応を最も直接に引き起こしているのが焦点刺激、その反応の強さを左右する周囲の要因が関連刺激です。状況によって同じ要因が入れ替わることもあります。
- 4つの様式の覚え方は?
- 「からだ」(生理)、「わたしは何者か」(自己概念)、「何をしているか」(役割機能)、「誰と支え合うか」(相互依存)と整理すると覚えやすいです。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Roy, C. (1970). Adaptation: A conceptual framework for nursing. Nursing Outlook, 18(3), 43–45.
- Roy, C. (2009). The Roy Adaptation Model (3rd ed.). Upper Saddle River, NJ: Pearson.
- Helson, H. (1964). Adaptation-Level Theory. New York: Harper & Row.
- Alligood, M. R. (Ed.). (2021). Nursing Theorists and Their Work (10th ed.). Elsevier.
