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安定・不安定のパラドックス

🏛️ 政治・行政学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
安定・不安定のパラドックスとは、米国の国際政治学者グレン・スナイダーが1965年に定式化した核戦略の概念で、相互核抑止によって戦略レベルの全面戦争が安定するほど、各国は相手がエスカレーションを覚悟できないと考えて、通常兵器による挑発や限定戦争といった下位レベルの紛争をより起こしやすくなり、不安定が増すというパラドックスです。
目次
  1. 1. 概念の起源
  2. 2. 理論的論争
  3. 3. 南アジアの事例と計量研究
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

概念の起源

スナイダー(1965年)は冷戦期の米ソ関係を分析し、「恐怖の均衡」が戦略レベルで安定しているほど、低いレベルの暴力では不安定が増すと指摘しました。相互確証破壊によって核戦争が非合理になると、どちらの側も小規模な侵攻に核で応じるという威嚇を信じさせにくくなるからです。英国の戦略家リデル・ハート(1960年)も、核抑止が強まるほど通常攻撃に対する抑止は弱まるという似た考えを示していました。シェリング(1966年)は、エスカレーションの危険そのものを交渉の手段とする「瀬戸際戦術」を分析し、この議論に理論的な土台を加えました。この概念は抑止理論と安全保障のジレンマの研究の中心的なテーマとなりました。

理論的論争

ジャーヴィス(1984年、1989年)は、「核革命」によって全面戦争での勝利は無意味になったとしつつも、まさにそのために大国が第三世界への介入や危機外交でより大胆になりうるとして、安定・不安定のパラドックスを論じました。これに対してウォルツ(1981年)は、核兵器の拡散がむしろ国家を慎重にさせ安定に寄与しうると主張し、大きな論争を呼びました。パウエル(2015年)はゲーム理論のモデルで核の瀬戸際戦術と限定戦争の関係を分析し、通常戦力のバランスが核危機におけるリスク受容の度合いを左右することを示しました。ナラン(2014年)は、地域核保有国の核態勢が紛争のあり方に与える影響を比較分析しています。

南アジアの事例と計量研究

1998年の核実験の後、インドとパキスタンの間で1999年のカルギル紛争、2001〜2002年の軍事的対峙が続いたことから、このパラドックスは南アジアに適用されるようになりました。クレポン(2003年)は核保有がパキスタンの低強度の挑発を後押ししたと分析し、カプール(2005年)は南アジアの平和は冷戦期のヨーロッパとは異なり不安定だと主張しました。ガングリーとハガティ(2005年)は、核抑止が危機のエスカレーションを防いだという反対の解釈を示しています。ラウハウス(2009年)は計量分析で、核保有国同士のペアは全面戦争の可能性は低いものの低強度の軍事紛争の可能性は高いという結果を報告し、アーリーとアサル(2018年)は、存亡の脅威に直面する核保有国でこのパラドックスが特に顕著だと分析しました。

よくある質問

安定・不安定のパラドックスを簡単に言うと?
核兵器があるために大きな戦争はお互いにできなくなりますが、まさにそのせいで、相手は核で反撃できないだろうと考えて小さな挑発や局地戦をかえって起こしやすくなるというパラドックスです。
実際の例はありますか?
1999年のインドとパキスタンのカルギル紛争が代表例としてよく挙げられます。計量研究でも、核保有国の間では全面戦争はまれである一方、低強度の紛争はより多いという結果が報告されています。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Snyder, G. H. (1965). The balance of power and the balance of terror. In P. Seabury (Ed.), The Balance of Power (pp. 184–201). San Francisco: Chandler.
  2. Liddell Hart, B. H. (1960). Deterrent or Defence: A Fresh Look at the West's Military Position. London: Stevens.
  3. Jervis, R. (1984). The Illogic of American Nuclear Strategy. Ithaca, NY: Cornell University Press.
  4. Jervis, R. (1989). The Meaning of the Nuclear Revolution. Ithaca, NY: Cornell University Press.
  5. Waltz, K. N. (1981). The Spread of Nuclear Weapons: More May Be Better (Adelphi Paper No. 171). London: International Institute for Strategic Studies.
  6. Schelling, T. C. (1966). Arms and Influence. New Haven, CT: Yale University Press.
  7. Krepon, M. (2003). The stability-instability paradox, misperception, and escalation control in South Asia. In M. Krepon, R. W. Jones, & Z. Haider (Eds.), Escalation Control and the Nuclear Option in South Asia (pp. 1–24). Washington, DC: Stimson Center.
  8. Kapur, S. P. (2005). India and Pakistan's unstable peace: Why nuclear South Asia is not like Cold War Europe. International Security, 30(2), 127–152.
  9. Rauchhaus, R. (2009). Evaluating the nuclear peace hypothesis: A quantitative approach. Journal of Conflict Resolution, 53(2), 258–277.
  10. Powell, R. (2015). Nuclear brinkmanship, limited war, and military power. International Organization, 69(3), 589–626.
  11. Ganguly, S., & Hagerty, D. T. (2005). Fearful Symmetry: India-Pakistan Crises in the Shadow of Nuclear Weapons. Seattle: University of Washington Press.
  12. Early, B. R., & Asal, V. (2018). Nuclear weapons, existential threats, and the stability–instability paradox. The Nonproliferation Review, 25(3–4), 223–247.
  13. Narang, V. (2014). Nuclear Strategy in the Modern Era: Regional Powers and International Conflict. Princeton, NJ: Princeton University Press.

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。