概要
サンクコスト(sunk cost、埋没費用)は、過去にすでに支出され、今後どんな選択をしても回収できない費用です。払い戻しのできないコンサートのチケット代、すでに投じた研究開発費、受講をやめても返金されない授業料が典型例です。経済学の基本原則は、意思決定ではサンクコストを無視し、これから追加でかかる費用と得られる便益だけを比べよということです。
なぜ無視すべきなのか
サンクコストはAを選んでもBを選んでも同じくすでに出ていったお金なので、2つの選択肢の差を生みません。合理的な判断とは「今から」続ける場合とやめる場合の費用と便益を比べることであり、そのとき一緒に考えるべきなのが、あきらめる他の機会の価値、つまり機会費用です。たとえば受講料を払った資格講座が期待外れだった場合、残りの時間をその講座に使うときと、別の講座・教材・実務経験に使うときに今後得られる結果を比べる必要があります。
サンクコスト効果と代表的研究
現実には、すでにかけた費用のために続けてしまう傾向が強く、これをサンクコスト効果(サンクコストの誤謬)といいます。英仏が共同開発した超音速旅客機コンコルドが、採算が疑われながらも開発が続けられた事例にちなみ、ドーキンスとカーライル(1976)はこれを「コンコルドの誤謬」と呼びました。
- 劇場の年間チケット実験:アークスとブルーマー(1985)は、大学劇場の年間チケットを定価で買う人と割引で買う人を無作為に分けました。定価で買った人のほうがシーズン前半により多くの公演を観に行きました。多く払ったお金が行動を変えたのです。
- コミットメントのエスカレーション:ストー(1976)は、自分が最初に下した投資判断が悪い結果を招いたとき、人はかえって同じところにより多くの資金を割り当てる傾向があることを示しました。
- 消費者行動:セイラー(1980)は、高く買ったものほど使いにくくても使い続けようとする行動をサンクコスト効果で説明しました。
限界と論争
サンクコストを考慮する行動が常に非合理だとは限らないという反論もあります。途中でやめると評判が下がったり、すでにかけた費用が今後の成功の見込みについての情報を含んでいたりする場合があるからです。また、損失を確定させたくない損失回避と、自分の決定を正当化しようとする認知的不協和がともに働くという説明もあります。
投資・事業・進路の判断に生かす
株式投資では「買値」が代表的なサンクコストです。損失が出た銘柄を元を取るために持ち続けるのではなく、今この価格で新たに買うかどうかを基準に判断せよという助言はここから来ています。事業では、プロジェクトごとに中止基準を事前に決め、最初に決定した人とは別の人が中間評価を担う方法が、コミットメントのエスカレーションを減らす方法として挙げられます。専攻選び、大学院進学、転職のように、すでに多くの時間をかけた進路の判断でも、「これからかかる費用と得られる結果」だけを書き出してみると役立ちます。数字の示し方も判断に影響しますが、これはフレーミング効果とアンカリング効果で扱います。
出典確認日:2026-10-16
参考文献
- Staw, B. M. (1976). Knee-deep in the big muddy: A study of escalating commitment to a chosen course of action. Organizational Behavior and Human Performance, 16(1), 27–44.
- Dawkins, R., & Carlisle, T. R. (1976). Parental investment, mate desertion and a fallacy. Nature, 262, 131–133.
- Thaler, R. (1980). Toward a positive theory of consumer choice. Journal of Economic Behavior & Organization, 1(1), 39–60.
- Arkes, H. R., & Blumer, C. (1985). The psychology of sunk cost. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124–140.