概要
資源は希少なので、何かを選べば別の何かを諦めなければなりません。経済学ではこの諦めたものの価値を機会費用と呼びます。オーストリア学派のフリードリヒ・フォン・ヴィーザーは1889年の『自然価値』で、生産要素の費用はその要素でつくれたはずの他の生産物の効用であるという考えを発展させました。アメリカのデイヴィッド・グリーンは1894年の論文「苦痛費用と機会費用」で、生産の費用は肉体的苦痛ではなく放棄した機会の犠牲であると論じ、この用語を英語圏に広めました。
定義と計算
機会費用は諦めたすべての代替案の合計ではなく、諦めた代替案のうち最も価値の高い一つの価値です。大学進学を例にすると次のように分けられます。
- 明示的費用:授業料や教材費など、実際に支出したお金です。
- 暗黙的費用:大学に通う代わりに働いていれば得られた所得のように、支出はないが諦めた価値です。
食費や住居費のように、進学しなくてもいずれにせよかかる費用は機会費用に含めません。企業の場合、会計的利潤は収入から明示的費用だけを差し引きますが、経済的利潤は自己資本や自分の労働の機会費用(暗黙的費用)まで差し引いた値です。経済的利潤がゼロなら正常利潤だけを得ているといいます。
埋没費用との区別
埋没費用(サンクコスト)は、すでに支出していてどの選択をしても取り戻せない費用です。合理的な選択は今後の便益と機会費用だけを比べるべきなので、埋没費用は考慮すべきではありません。しかし人々はすでに使ったお金が惜しくて損な選択を続ける傾向(サンクコストの誤謬)を示し、これは行動経済学の主要な研究テーマです。
生産可能性フロンティアと比較優位
生産可能性フロンティアは、与えられた資源で生産できる2財の最大の組み合わせを示します。フロンティア上で一方の財を増やすには他方を減らさなければならず、その減少分が機会費用です。曲線が原点に対して外側に膨らんでいるのは機会費用が逓増することを意味します。リカードの比較優位も機会費用で定義され、ある財を生産する機会費用が相対的に低い国がその財に比較優位をもちます。
応用と論点
- 家事労働の評価:家事の代わりに市場で働いていれば得られた賃金で価値を計算する機会費用法があり、同じ仕事を他人に任せる費用で計算する代替費用法とともに使われます。
- 出産と子育て:子育て期間に女性が諦める所得が出産の決定に影響するという説明は、少子化理論の柱の一つです。
- 主観的費用:ジェームズ・ブキャナン(1969)は、機会費用は選択する本人が心の中で評価する主観的なものであり、第三者が正確に測ることはできないと強調しました。
- 機会費用の無視:フレデリックら(2009)は、消費者は購入時にそのお金で他に何ができるかを自発的にはあまり考えず、「このお金は別のことにも使える」という手がかりを与えると購入が減るという実験結果を報告しました。
参考文献
- Wieser, F. von (1889). Der natürliche Werth. Wien: Alfred Hölder.
- Green, D. I. (1894). Pain-cost and opportunity-cost. Quarterly Journal of Economics, 8(2), 218–229.
- Buchanan, J. M. (1969). Cost and Choice: An Inquiry in Economic Theory. Chicago: Markham.
- Frederick, S., Novemsky, N., Wang, J., Dhar, R., & Nowlis, S. (2009). Opportunity cost neglect. Journal of Consumer Research, 36(4), 553–561.