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栄養カスケード

🔬 自然科学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
栄養カスケード(トロフィック・カスケード)とは、食物連鎖の上位にいる捕食者の個体数や行動が変わると、その影響が下の段階へ順々に伝わり、植食者を経て植物や藻類の量まで変化する現象です。たとえば捕食者が増えると植食者が減り、その結果として植物が増えます。
目次
  1. 1. 起源と概念
  2. 2. 代表的な事例
  3. 3. トップダウンとボトムアップの論争と意義
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

起源と概念

ヘアストン、スミス、スロボドキン(1960年)は「世界はなぜ緑なのか」と問い、捕食者が植食者を抑えているからこそ植物は食べ尽くされずに残っていると論じました。この考えは著者の頭文字をとって「HSS仮説」または「緑の世界仮説」と呼ばれます。ロバート・ペイン(1966年)は米国ワシントン州の岩礁潮間帯で、捕食性のヒトデを取り除くとイガイが岩を覆い尽くし、他の種が姿を消すことを観察し、これをもとにキーストーン種の概念を提唱しました。ペイン(1980年)は、こうした連鎖的な影響を「栄養カスケード」と呼びました。オクサネンら(1981年)は、一次生産性が高まるにつれて食物連鎖の段階が増え、制御の構造が変わるという理論をまとめました。

代表的な事例

エステスとパルミサノ(1974年)は、アリューシャン列島でラッコのいる島ではウニが少なくケルプの森が豊かである一方、ラッコのいない島ではウニがケルプを食べ尽くして「ウニ焼け(磯焼け)」が生じることを示しました。カーペンター、キッチェル、ホジソン(1985年)は、湖で魚食性の魚がプランクトン食の魚を減らすと動物プランクトンが増え、藻類が減るという連鎖を報告しました。リップルとベシュタ(2004年)は、イエローストーン国立公園にオオカミが再導入された後、エルクの採食行動が変わり、一部の地域でヤナギやアスペンが回復したと主張し、捕食のリスクそのものが生態系を変える「恐怖の生態学」を強調しました。ただし、イエローストーンの事例の規模と原因については、その後も研究者のあいだで議論が続いています。

トップダウンとボトムアップの論争と意義

ハンターとプライス(1992年)は、生態系は捕食者による「トップダウン」の制御と、栄養塩や一次生産による「ボトムアップ」の制御の両方を受けており、その相対的な重要性は状況によって変わるとまとめました。ポリスとストロング(1996年)は、雑食や複雑な食物網のためにカスケードが弱まりうると指摘しました。ペースら(1999年)は多様な生態系で栄養カスケードが現れる証拠を集め、シューリンら(2002年)は生態系間の比較で、水域のカスケードが陸域より強い傾向があることを報告しました。ターボーとエステス(2010年)の編著とエステスら(2011年)は、大型捕食者の減少が地球の生態系全体を単純化する「栄養段階の格下げ」を引き起こしていると警告しています。この概念は、ロトカ=ヴォルテラの方程式のような個体群モデルと、中規模攪乱仮説のような群集理論とをつなぐ役割を果たしています。

よくある質問

栄養カスケードを簡単に説明すると?
オオカミのような頂点捕食者が増えるとシカのような植食者が減り、そのおかげで木や草が増えるというように、影響が食物連鎖を下へ伝わっていく現象です。
トップダウン制御とボトムアップ制御はどう違いますか?
トップダウン制御は捕食者が下の段階を抑えることで、ボトムアップ制御は栄養塩や植物の生産量が上の段階の規模を決めることです。実際の生態系では両方の力が同時に働いています。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Hairston, N. G., Smith, F. E., & Slobodkin, L. B. (1960). Community structure, population control, and competition. American Naturalist, 94(879), 421–425.
  2. Paine, R. T. (1966). Food web complexity and species diversity. American Naturalist, 100(910), 65–75.
  3. Paine, R. T. (1980). Food webs: Linkage, interaction strength and community infrastructure. Journal of Animal Ecology, 49(3), 667–685.
  4. Estes, J. A., & Palmisano, J. F. (1974). Sea otters: Their role in structuring nearshore communities. Science, 185(4156), 1058–1060.
  5. Carpenter, S. R., Kitchell, J. F., & Hodgson, J. R. (1985). Cascading trophic interactions and lake productivity. BioScience, 35(10), 634–639.
  6. Oksanen, L., Fretwell, S. D., Arruda, J., & Niemelä, P. (1981). Exploitation ecosystems in gradients of primary productivity. American Naturalist, 118(2), 240–261.
  7. Hunter, M. D., & Price, P. W. (1992). Playing chutes and ladders: Heterogeneity and the relative roles of bottom-up and top-down forces in natural communities. Ecology, 73(3), 724–732.
  8. Polis, G. A., & Strong, D. R. (1996). Food web complexity and community dynamics. American Naturalist, 147(5), 813–846.
  9. Pace, M. L., Cole, J. J., Carpenter, S. R., & Kitchell, J. F. (1999). Trophic cascades revealed in diverse ecosystems. Trends in Ecology & Evolution, 14(12), 483–488.
  10. Shurin, J. B., et al. (2002). A cross-ecosystem comparison of the strength of trophic cascades. Ecology Letters, 5(6), 785–791.
  11. Ripple, W. J., & Beschta, R. L. (2004). Wolves and the ecology of fear: Can predation risk structure ecosystems? BioScience, 54(8), 755–766.
  12. Terborgh, J., & Estes, J. A. (Eds.). (2010). Trophic Cascades: Predators, Prey, and the Changing Dynamics of Nature. Washington, DC: Island Press.
  13. Estes, J. A., et al. (2011). Trophic downgrading of planet Earth. Science, 333(6040), 301–306.

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この記事は2026年10月26日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。