命題と出発点
ロナルド・コースは「連邦通信委員会」(1959年)と「社会的費用の問題」(1960年)で、外部性についての従来の見方を覆しました。市場の失敗に関するピグー(1920年)の伝統は、汚染を引き起こす側に税を課すか責任を負わせるべきだと考えていました。コースは外部性が「相互的」だと指摘しました。牧場の牛が隣の農家の作物を荒らすなら、牛を制限すれば牧場主が、放置すれば農家が損害を被るという選択だというのです。彼は、取引費用がなく財産権が明確なら、農家に保護される権利を与えても牧場主に放牧する権利を与えても、双方が交渉して総価値が最大の結果に至ると論じました。権利の配分は富の分配には影響するが、資源配分の効率性には影響しないということです。ジョージ・スティグラー(1966年)がこれを「コースの定理」と名づけました。
本当のメッセージ:取引費用
コース自身は、取引費用ゼロの世界は現実ではなく出発点だと強調しました。現実には交渉相手を探し、情報を集め、契約を結んで守ることに費用がかかるため、権利を誰に与えるか、どのような制度を置くかが結果を左右するというのが核心です。これは企業が存在する理由を取引費用で説明した「企業の本質」(1937年)とつながり、取引費用理論と新制度派経済学の土台となりました。カラブレイジとメラメッド(1972年)はこれを拡張し、権利の保護を差止命令のような「財産ルール」と損害賠償のような「責任ルール」に分ける法と経済学の枠組みをつくりました。スティーヴン・チャン(1973年)は養蜂家と果樹園主が実際に受粉契約を結んでいることを示し、ミツバチの外部性を公共財型の市場の失敗の教科書的事例として使う慣行に反論しました。
検証と限界
ホフマンとスピッツァー(1982年)の実験では、小規模な交渉でおおむね効率的な合意が成立しました。しかしカーネマン、クネッチ、セイラー(1990年)は、人が持っているものをより高く評価する保有効果のため、最初の権利配分が取引結果に影響しうることを示しました。ファレル(1987年)は、相手の費用や価値を知らない情報の非対称性のもとでは交渉が決裂したり非効率になったりしうると指摘し、大気汚染のように当事者が多い問題ではただ乗りのため交渉自体が難しいこともゲーム理論で分析されました。エリクソン(1991年)は、カリフォルニアの牧畜地域の隣人たちが法よりも社会規範で紛争を解決していることを示し、定理の仮定を別の角度から補いました。メデマ(2020年)は60年にわたる議論を整理し、この定理は結論としてより制度分析の出発点として価値が大きいと評価しています。
よくある質問
- コースの定理は政府の規制が不要だという意味ですか?
- いいえ。取引費用の高い現実では権利配分と法制度が結果を左右するため、どの制度が取引費用を下げ総価値を高めるかを比較すべきだという意味に近いものです。
- なぜ「定理」と呼ばれるのですか?
- コース自身が数学的定理として示したのではなく、スティグラー(1966年)が教科書で彼の議論を一つの命題にまとめて名づけたことで広まりました。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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- Coase, R. H. (1959). The Federal Communications Commission. Journal of Law and Economics, 2, 1–40.
- Coase, R. H. (1960). The problem of social cost. Journal of Law and Economics, 3, 1–44.
- Pigou, A. C. (1920). The Economics of Welfare. London: Macmillan.
- Stigler, G. J. (1966). The Theory of Price (3rd ed.). New York: Macmillan.
- Calabresi, G., & Melamed, A. D. (1972). Property rules, liability rules, and inalienability: One view of the cathedral. Harvard Law Review, 85(6), 1089–1128.
- Cheung, S. N. S. (1973). The fable of the bees: An economic investigation. Journal of Law and Economics, 16(1), 11–33.
- Hoffman, E., & Spitzer, M. L. (1982). The Coase theorem: Some experimental tests. Journal of Law and Economics, 25(1), 73–98.
- Farrell, J. (1987). Information and the Coase theorem. Journal of Economic Perspectives, 1(2), 113–129.
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- Ellickson, R. C. (1991). Order without Law: How Neighbors Settle Disputes. Cambridge, MA: Harvard University Press.
- Medema, S. G. (2020). The Coase theorem at sixty. Journal of Economic Literature, 58(4), 1045–1128.
