概念の起源
ル・ボン(1895年)は『群衆心理』で、群衆の中の個人は匿名性や感染、被暗示性のために理性を失い、原始的で衝動的になると描写しました。フェスティンガー、ペピトーン、ニューカム(1952年)はこの考えを実験心理学に持ち込み、集団の中で個人が個別に注目されないとき内的な抑制が弱まるという「没個性化」の概念を示しました。ジンバルドー(1969年)は、女子学生にフードとだぶだぶのガウンを着せて匿名性を高めると、名札をつけた条件よりも他者により長い電気ショックを与えたと報告しました。彼は、匿名性、責任の分散、覚醒、感覚の過負荷といった条件が自己の観察と評価を弱め、衝動的な行動を生むと考えました。ワトソン(1973年)は、複数の文化圏のデータから、戦いの前に顔や体に色を塗ったり仮面をつけたりする社会ほど敵に対して残虐になる傾向があると報告しました。
実験と自己意識理論
ディーナー、フレイザー、ビーマン、ケレム(1976年)は、ハロウィーンの夜にお菓子をもらいに来た子どもたちを観察しました。名前や住所を聞かれず、複数で一緒に来たとき、子どもたちは「一つだけ取ってね」という指示を破って、お菓子やお金をより多く持っていきました。ディーナー(1980年)は没個性化を自己意識の欠如として説明し、集団に没入し注意が外へ向かうとき、人は自分の基準に照らして行動を点検できなくなると考えました。マン(1981年)は、自殺をほのめかす事件の新聞記録を分析し、群衆が大きいほど、また暗い夜であるほど、群衆が飛び降りるようはやし立てる場合が多かったと報告しました。しかしジョンソンとダウニング(1979年)は、同じ匿名性の条件でも看護師の服を着せたときにはむしろ電気ショックを減らしたという結果を報告し、匿名性そのものより状況が与える手がかりや規範が重要でありうることを示しました。
社会的アイデンティティ・モデルとオンライン
ライカー、スピアーズ、ポストメス(1995年)は、没個性化効果の社会的アイデンティティ・モデル(SIDE)を示しました。このモデルによれば、匿名性は個人に規範を失わせるのではなく、個人的アイデンティティより集団のアイデンティティを際立たせ、その集団の規範により強く従わせます。ポストメスとスピアーズ(1998年)は60の研究をメタ分析し、没個性化の条件が一般的な反規範的行動を増やすという証拠は弱く、むしろ状況に特有の集団規範への同調が強まると報告しました。ポストメス、スピアーズ、リー(1998年)は、コンピューターを介したコミュニケーションでは匿名性が集団の境界を強めうると分析し、スーラー(2004年)は、匿名性や不可視性などがオンラインでふだんより遠慮なく振る舞わせる「オンライン脱抑制効果」を説明しました。没個性化は社会的アイデンティティ理論、スタンフォード監獄実験、社会的手抜きとともに、集団の中の個人の行動を理解する概念として扱われます。
よくある質問
- 没個性化を簡単に言うと?
- 仮面をかぶったり大勢の中に紛れたりして誰が誰だかわかりにくいとき、人々がふだんならしない行動をより簡単にとってしまう現象です。
- 没個性化はいつも悪い行動につながりますか?
- そうではありません。研究によれば、匿名性は人々を無条件に攻撃的にするというより、その状況で際立つ集団規範により従わせます。そのため集団規範が向社会的であれば、かえって助け合う行動が現れることもあります。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Le Bon, G. (1895). Psychologie des foules. Paris: Félix Alcan.
- Festinger, L., Pepitone, A., & Newcomb, T. (1952). Some consequences of de-individuation in a group. Journal of Abnormal and Social Psychology, 47(2, Suppl.), 382–389.
- Zimbardo, P. G. (1969). The human choice: Individuation, reason, and order versus deindividuation, impulse, and chaos. Nebraska Symposium on Motivation, 17, 237–307.
- Diener, E., Fraser, S. C., Beaman, A. L., & Kelem, R. T. (1976). Effects of deindividuation variables on stealing among Halloween trick-or-treaters. Journal of Personality and Social Psychology, 33(2), 178–183.
- Watson, R. I., Jr. (1973). Investigation into deindividuation using a cross-cultural survey technique. Journal of Personality and Social Psychology, 25(3), 342–345.
- Diener, E. (1980). Deindividuation: The absence of self-awareness and self-regulation in group members. In P. B. Paulus (Ed.), Psychology of Group Influence (pp. 209–242). Hillsdale, NJ: Erlbaum.
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