背景:共通内集団から二重アイデンティティへ
ガートナーら(1993年)の共通内集団アイデンティティ・モデルは、「私たち」と「彼ら」を一つの上位集団の「私たち」に再カテゴリー化すれば偏りが減るとみました。しかしホーンジーとホッグ(2000年)は、下位集団のアイデンティティが重要な人にそれを捨てて上位集団に同化するよう求めると、アイデンティティが脅かされてかえって偏りが大きくなりうると指摘しました。そこで、下位集団と上位集団のアイデンティティをともに保つ二重アイデンティティ、つまり「同じチームの中の異なる集団」という表象が代案として示されました。ベリー(1997年)の文化変容モデルで、出身文化と主流文化をともに保つ「統合」戦略も同じ考えに通じます。
研究の根拠
ゴンサレスとブラウン(2006年)は実験で、二つの集団がともに作業するとき、下位集団と上位集団の両方を際立たせた二重アイデンティティ条件で、肯定的な態度変化が接触相手を超えて外集団全体へよりよく一般化することを示しました。これは接触相手が自集団を代表する人とみなされながらも、味方として認識されるためです。サイモンとクランダーマンス(2001年)は、移民や少数集団が下位集団のアイデンティティと社会全体の市民としてのアイデンティティをあわせもつとき、その社会の中で政治的権利を求める「政治化されたアイデンティティ」が形成されるとみました。
多数派と少数派の違いと限界
ドヴィディオ、ガートナー、サギー(2007年)は、多数派集団は一つの共通アイデンティティを、少数派集団は二重アイデンティティをより好む傾向があるとまとめました。多数派にとって二重アイデンティティは分裂と感じられ、少数派にとって単一のアイデンティティは同化の要求と感じられうるためです。ドヴィディオら(2009年)はまた、共通性を強調しすぎると少数派が不平等をあまり認識せず、集合行為に加わりにくくなりうるという逆説を指摘しました。上位集団の基準を自集団に合わせて判断する内集団投影も、二重アイデンティティの限界として議論されています。
よくある質問
- 二重アイデンティティ・モデルを簡単に言うと?
- 「私は〇〇出身であり、同時にこの社会の一員でもある」のように二つのアイデンティティをあわせもつことが集団間関係に役立つという考えです。
- 一つの共通アイデンティティより常によいのですか?
- 少数派は二重アイデンティティを、多数派は共通アイデンティティをより好む傾向があり、状況によって効果が異なります。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Gaertner, S. L., Dovidio, J. F., Anastasio, P. A., Bachman, B. A., & Rust, M. C. (1993). The common ingroup identity model: Recategorization and the reduction of intergroup bias. European Review of Social Psychology, 4(1), 1–26. 二重アイデンティティの土台となった共通内集団アイデンティティ・モデルの原典で、理論的な根を見るのに参考になります。
- Berry, J. W. (1997). Immigration, acculturation, and adaptation. Applied Psychology, 46(1), 5–34. 統合戦略を含む文化変容モデルで、移民の文脈を見るのに役立ちます。
- Hornsey, M. J., & Hogg, M. A. (2000). Assimilation and diversity: An integrative model of subgroup relations. Personality and Social Psychology Review, 4(2), 143–156. 下位集団のアイデンティティを消すと反発が生じるとするモデルで、同化の限界を見るのに参考になります。
- Simon, B., & Klandermans, B. (2001). Politicized collective identity: A social psychological analysis. American Psychologist, 56(4), 319–331. 二重アイデンティティが政治化されたアイデンティティにつながる過程を扱った論文で、政治的な含意を見るのに役立ちます。
- González, R., & Brown, R. (2006). Dual identities in intergroup contact: Group status and size moderate the generalization of positive attitude change. Journal of Experimental Social Psychology, 42(6), 753–767. 二重アイデンティティが接触効果の一般化を助けることを示した実験で、実証的な根拠を見るのに参考になります。
- Dovidio, J. F., Gaertner, S. L., & Saguy, T. (2007). Another view of "we": Majority and minority group perspectives on a common ingroup identity. European Review of Social Psychology, 18(1), 296–330. 多数派と少数派で好むアイデンティティが異なることを示した概観で、集団ごとの違いを見るのに役立ちます。
- Dovidio, J. F., Gaertner, S. L., & Saguy, T. (2009). Commonality and the complexity of "we": Social attitudes and social change. Personality and Social Psychology Review, 13(1), 3–20. 共通性の強調が不平等の認識を弱めうるとする議論で、社会変化との関係を見るのに参考になります。
