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エル・ファロル・バー問題

📈 経済学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
エル・ファロル・バー問題とは、経済学者W・ブライアン・アーサーが1994年に提示したモデルで、米国サンタフェのバー「エル・ファロル」に毎週100人が行くかどうかを決め、来店者が60人未満なら楽しいが、それ以上だと混雑して家にいたほうがよいという状況を扱います。全員が同じ予測を使うとその予測は自ら外れてしまうため、演繹的な合理性ではなく、限定合理性と帰納的推論が必要になることを示しています。
目次
  1. 1. 問題の設定と自己否定的な予測
  2. 2. 帰納的推論と予測ルールの生態系
  3. 3. マイノリティ・ゲームと実験研究
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

問題の設定と自己否定的な予測

アーサー(1994年)は、アイリッシュ音楽が演奏されるサンタフェのバーの木曜日の夜を例に挙げました。参加者は過去数週間の来店者数だけを知っていて、今週行くかどうかを決めます。もし全員が「今回はすいているだろう」と予測すれば全員が行って混雑し、「混むだろう」と予測すれば誰も行かずにがらがらになります。このように共有された予測は自らを否定するため、全員が従う単一の合理的な予測モデルは存在しえません。これは合理的期待の前提を揺るがすもので、他人の考えを読まなければならない点ではケインズの美人投票に似ていますが、多数派とは逆を行くことで勝つという点が異なります。

帰納的推論と予測ルールの生態系

アーサーはサイモン(1955年)の限定合理性の考えを受け継ぎ、人々が「先週と同じ」「直近4週の平均」「先週の鏡像」といった複数の予測ルールをもち、最近の成績がよいルールを使うというエージェント・ベースのシミュレーションを行いました。その結果、平均来店者数は60人付近で揺れ動きながら維持され、どのルールも優位を保ち続けることはなく、予測ルールが生態系のように競い合いました。アーサーら(1997年)は同じ発想を人工株式市場に応用し、フォーゲル、チェラピラ、アンジェリン(1999年)は進化計算を用いて結果を再検討しました。アーサー(2015年)は、この問題を複雑系経済学の中心的な事例として位置づけています。

マイノリティ・ゲームと実験研究

シャレとジャン(1997年)はこの問題を単純化し、奇数人の参加者が2つの選択肢から選び、少数派の側を選んだ人が勝つ「マイノリティ・ゲーム」をつくりました。シャレ、マルシリ、ジャン(2005年)は、これを金融市場で相互作用するエージェントのモデルへと発展させています。サヴィット、マヌカ、リオロ(1999年)は、エージェントの記憶の長さによって市場の効率性が変わる相転移を発見し、ジョンソン、ジェフリーズ、ホイ(2003年)はこれを金融市場の複雑性の研究へと広げました。実験では、ラポポートら(1998年)の市場参入ゲームと、ボッタッツィとデヴェタグ(2007年)のマイノリティ・ゲームの実験が、集団レベルの参入が驚くほど均衡の近くに調整されることを示し、ゼルテンら(2007年)の通勤経路選択の実験も、交通渋滞のような混雑ゲームで似たパターンを報告しています。

よくある質問

エル・ファロル・バー問題を簡単に言うと?
バーに人が来すぎると混んでつまらなく、少なければ楽しめます。全員が同じように考えるとその予測が外れてしまうため、行くかどうかを決めるのは見た目以上に難しいのです。
マイノリティ・ゲームとはどんな関係ですか?
マイノリティ・ゲームはエル・ファロル・バー問題を単純化したもので、2つの選択肢のうち選んだ人が少ないほうが勝つゲームです。株式市場のように、他人と逆のことをしたほうが得をする状況の研究に使われています。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Arthur, W. B. (1994). Inductive reasoning and bounded rationality. American Economic Review, 84(2), 406–411.
  2. Challet, D., & Zhang, Y.-C. (1997). Emergence of cooperation and organization in an evolutionary game. Physica A, 246(3–4), 407–418.
  3. Challet, D., Marsili, M., & Zhang, Y.-C. (2005). Minority Games: Interacting Agents in Financial Markets. Oxford: Oxford University Press.
  4. Simon, H. A. (1955). A behavioral model of rational choice. Quarterly Journal of Economics, 69(1), 99–118.
  5. Savit, R., Manuca, R., & Riolo, R. (1999). Adaptive competition, market efficiency, and phase transitions. Physical Review Letters, 82(10), 2203–2206.
  6. Johnson, N. F., Jefferies, P., & Hui, P. M. (2003). Financial Market Complexity. Oxford: Oxford University Press.
  7. Arthur, W. B., Holland, J. H., LeBaron, B., Palmer, R., & Tayler, P. (1997). Asset pricing under endogenous expectations in an artificial stock market. In W. B. Arthur, S. N. Durlauf & D. A. Lane (Eds.), The Economy as an Evolving Complex System II (pp. 15–44). Reading, MA: Addison-Wesley.
  8. Selten, R., Chmura, T., Pitz, T., Kube, S., & Schreckenberg, M. (2007). Commuters route choice behaviour. Games and Economic Behavior, 58(2), 394–406.
  9. Bottazzi, G., & Devetag, G. (2007). Competition and coordination in experimental minority games. Journal of Evolutionary Economics, 17(3), 241–275.
  10. Rapoport, A., Seale, D. A., Erev, I., & Sundali, J. A. (1998). Equilibrium play in large group market entry games. Management Science, 44(1), 119–141.
  11. Fogel, D. B., Chellapilla, K., & Angeline, P. J. (1999). Inductive reasoning and bounded rationality reconsidered. IEEE Transactions on Evolutionary Computation, 3(2), 142–146.
  12. Whitehead, D. (2008). The El Farol Bar problem revisited: Reinforcement learning in a potential game. ESE Discussion Papers 186, University of Edinburgh.
  13. Arthur, W. B. (2015). Complexity and the Economy. Oxford: Oxford University Press.

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。