アトキンソンの出発点
アトキンソン(1957年)は、達成行動を、成功しようとする動機、成功の確率への期待、成功したときの誘因価を掛け合わせた結果として説明しました。易しい課題は成功の確率が高いものの成功しても誇らしさは小さく、難しい課題は誇らしさが大きいものの成功の確率は低くなります。そのため、達成動機の高い人は中程度の難しさの課題を最も好むと予測しました。同じころフィッシュバイン(1963年)は、対象についての信念とその信念の評価を掛け合わせて態度を説明し、これは計画的行動理論の土台となりました。ヴルーム(1964年)も似た論理で働く人の努力を説明する期待理論を示しました。
エクルズとウィグフィールドの現代モデル
エクルズら(1983年)は、学生がなぜ特定の科目を選び粘り強く勉強するのかを説明するために、モデルを新たにつくりました。成功への期待は「この課題をどれだけうまくできるか」についての信念で、自己効力感に似ています。課題価値は四つに分かれます。うまくやることが自分にとって重要な「達成価値」、することそのものが楽しい「内発的価値」、将来の目標に役立つ「利用価値」、そして時間・労力・不安といった代償である「コスト」です。ウィグフィールドとエクルズ(2000年)は、子どもが成長するにつれて期待と価値が科目ごとによりはっきり区別され、全体として次第に低下することを示しました。
応用と拡張
この理論は、学生の科目選択、とくに女子生徒が数学や科学の進路を選びにくい理由を説明するのに多く使われてきました。親や教師の期待、ジェンダー・ステレオタイプといった社会的な要因が学生の期待と価値を形づくることを強調したからです。エクルズとウィグフィールド(2002年)は、この理論を自己決定理論や目標理論など他の動機づけ理論と比較して整理しました。近年、エクルズとウィグフィールド(2020年)は、期待と価値が具体的な状況や文化の中で刻々と形成されることを強調し、「状況的期待価値理論」へと名前を改めました。ただし、期待と価値が掛け合わされるのか足し合わされるのか、コストを別に扱うべきかなどは、いまも論争の的です。
よくある質問
- 期待価値理論を簡単に言うと?
- 「うまくできそうだ」という期待と「やってみる価値がある」という考えがともに大きいほど、その課題を選び熱心に取り組むという理論です。どちらか一方でも低いと動機は弱まります。
- エクルズのいう四つの課題価値とは何ですか?
- うまくやることが自分にとって重要な達成価値、することそのものが楽しい内発的価値、将来の目標に役立つ利用価値、そして時間・労力・不安といった代償であるコストです。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Atkinson, J. W. (1957). Motivational determinants of risk-taking behavior. Psychological Review, 64(6), 359–372. 成功の期待と成功の誘因価を掛け合わせて動機を説明した古典的なモデルで、期待価値理論の出発点を見るのに参考になります。
- Fishbein, M. (1963). An investigation of the relationships between beliefs about an object and the attitude toward that object. Human Relations, 16(3), 233–239. 信念と評価の積で態度を説明した期待価値型の態度モデルで、態度研究での活用を見るのに役立ちます。
- Vroom, V. H. (1964). Work and Motivation. New York: Wiley. 期待・道具性・誘因価で職務動機を説明した本で、組織や経営分野の期待理論を見るのに参考になります。
- Eccles, J. S., Adler, T. F., Futterman, R., Goff, S. B., Kaczala, C. M., Meece, J. L., & Midgley, C. (1983). Expectancies, values, and academic behaviors. In J. T. Spence (Ed.), Achievement and Achievement Motives (pp. 75–146). San Francisco: W. H. Freeman. 現代の期待価値理論の基本的な枠組みと四つの課題価値を示した文章で、教育心理学のモデルを理解するのに役立ちます。
- Wigfield, A., & Eccles, J. S. (2000). Expectancy–value theory of achievement motivation. Contemporary Educational Psychology, 25(1), 68–81. 児童期を通じて期待と価値がどのように発達するかを整理した代表的な論文で、発達的な視点を見るのに参考になります。
- Eccles, J. S., & Wigfield, A. (2002). Motivational beliefs, values, and goals. Annual Review of Psychology, 53, 109–132. 期待価値理論を他の動機づけ理論とあわせて整理したレビューで、動機づけ研究全体の中での位置を見るのに役立ちます。
- Eccles, J. S., & Wigfield, A. (2020). From expectancy-value theory to situated expectancy-value theory: A developmental, social cognitive, and sociocultural perspective on motivation. Contemporary Educational Psychology, 61, 101859. 理論を「状況的期待価値理論」へと改めた最新の論文で、理論の現在の姿を確かめるのに参考になります。
