概要
自己決定理論(self-determination theory, SDT)は、アメリカ・ロチェスター大学の心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが発展させた動機づけ理論です。デシは1971年の実験で、パズルを解くと金銭報酬をもらえた参加者が、報酬がなくなった後はパズルに使う自由時間が減ることを報告しました。二人は1985年の著書『人間行動における内発的動機づけと自己決定』で理論の枠組みをまとめました。動機づけ理論の中でも、動機づけの量より質、つまり「なぜ行動するのか」を重視する点が特徴です。
3つの基本的心理欲求
- 自律性:自分の行動を自ら選び、納得していると感じたい欲求。他者から切り離された独立とは異なります。
- 有能感:環境にうまく対処でき、技能を身につけていると感じたい欲求。
- 関係性:他者とつながり、大切にされていると感じたい欲求。
理論はこれらの欲求を文化を問わず普遍的なものとみなし、欲求が支えられると動機づけとウェルビーイングが高まり、妨げられると低下すると説明します。
動機づけの連続体
自己決定理論は、動機づけを「ある・ない」ではなく、自己決定の程度による連続体としてとらえます。
- 無動機:行動する意図や理由がない状態
- 外的調整:報酬を得たり罰を避けたりするための行動
- 取り入れ的調整:罪悪感やプライドから「やらねばならない」と感じて行う行動
- 同一化的調整:行動の価値を自分で認めて行う行動
- 統合的調整:行動が自分の価値観全体と調和している状態
- 内発的動機づけ:活動そのものが面白く満足できるから行う行動
外発的動機づけでも、内在化が進めば自律的な動機づけになりえます。この点はメタ認知と内発的動機づけでも扱っています。
6つのミニ理論
ライアンとデシ(2017)は自己決定理論を6つのミニ理論に整理しています。報酬やフィードバックが内発的動機づけに与える影響を扱う認知的評価理論、外発的動機づけの内在化を扱う有機的統合理論、動機づけの個人差を扱う因果志向性理論、欲求充足とウェルビーイングの関係を扱う基本的心理欲求理論、お金や名声といった外発的目標と成長や人間関係といった内発的目標を比べる目標内容理論、親密な関係を扱う関係性動機づけ理論です。
応用と批判
教育では、選択の機会を与える、理由を説明する、適度な難しさの課題と情報的なフィードバックを与えることが、生徒の自律的な動機づけを支えると考えられ、職場・スポーツ指導・健康行動の研究でも広く使われています。マズローの欲求階層説と違って欲求の間に序列を置かず、有能感の考え方は自己効力感と重なります。批判としては、集団主義の文化でも自律性が同じように重要かという論争、報酬が内発的動機づけを損なう「アンダーマイニング効果」の大きさをめぐる行動主義の研究者との論争、自己報告尺度への依存が挙げられます。
出典確認日:2026-10-16
参考文献
- Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 18(1), 105–115.
- Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior. New York: Plenum.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017). Self-Determination Theory: Basic Psychological Needs in Motivation, Development, and Wellness. New York: Guilford Press.