組織化された無秩序
コーエン、マーチ、オルセン(1972年)は、大学のように「組織化された無秩序」の状態にある組織を分析しました。こうした組織には三つの特徴があります。第一に、構成員が何を望んでいるのかがはっきりせず、目標は行動を通じて後から見いだされます。第二に、組織がどのように動いているのかについての理解が不明確で、試行錯誤に頼ります。第三に、参加者が流動的で、同じ人が決定に注ぐ時間や関心もしばしば変わります。このような状況では、目標を定め代替案を比較して最善を選ぶ合理的な意思決定モデルはうまく当てはまりません。このモデルは、人間の計算能力には限界があるという限定合理性の議論を組織のレベルへさらに押し広げたものです。
四つの流れと決定の型
モデルは、組織のなかを問題、解決策、参加者、選択機会という四つの流れが比較的独立して流れていると考えます。解決策は問題を待たずにあらかじめ存在し、誰かが好む解決策が適用先の問題を探し回ることもあります。会議や予算編成のような選択機会は、これらの流れが投げ込まれるゴミ箱の役割を果たします。著者たちはコンピュータ・シミュレーションによって決定の型を三つに分けました。問題が実際に解決される「解決」、問題が入ってくる前に素早く決めてしまう「見過ごし」、問題が別の選択機会へ移った後でようやく決める「飛ばし」です。シミュレーションでは、問題を実際に解決する決定はむしろまれにしか現れませんでした。パジェット(1980年)はこれに階層構造を加えてモデルを数理的に拡張しました。
政策研究への拡張と批判
マーチとオルセン(1976年)は事例研究によってモデルを発展させ、その後二人は政治制度を重視する新制度論を提唱しました(March & Olsen, 1984)。キングダン(1984年)はゴミ箱モデルを公共政策のアジェンダ設定に応用し、多重流モデルをつくりました。一方、ベンダー、モー、ショッツ(2001年)は、原論文のコンピュータ・シミュレーションが言葉で説明された理論とは異なるはたらきをしており、参加者の行動についての仮定が機械的すぎると批判しました。原著者たちは40年後にモデルを振り返り、これは精密な予測理論というより、曖昧な状況での決定を見るための視点だと説明しました(Cohen, March & Olsen, 2012)。ゴミ箱モデルは官僚制的合理性の限界を示す代表的な理論として、行政学や政策学で今も広く扱われています。
よくある質問
- ゴミ箱モデルを簡単に言うと?
- 組織の決定は問題を分析して最善の答えを選ぶ方法ではなく、漂っていた問題・解決策・人・決める機会が偶然一か所で出会ったときに行われる、という理論です。目標が曖昧で人がよく入れ替わる大学のような組織を説明するために生まれました。
- ゴミ箱モデルはどんな批判を受けていますか?
- 原論文のコンピュータ・シミュレーションが言葉で説明された理論と違うはたらきをしており、人々の行動を機械的に仮定しすぎているという批判があります。原著者たちは、このモデルは正確な予測より曖昧な状況を理解するための視点だと答えました。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Cohen, M. D., March, J. G., & Olsen, J. P. (1972). A garbage can model of organizational choice. Administrative Science Quarterly, 17(1), 1–25. ゴミ箱モデルを初めて示した原論文で、問題・解決策・参加者・選択機会という四つの流れの基本概念を知りたいときに参考になります。
- March, J. G., & Olsen, J. P. (1976). Ambiguity and Choice in Organizations. Bergen: Universitetsforlaget. 大学など実際の組織の事例で曖昧さのなかの選択を扱った本で、モデルが現実にどう適用されるかを見るのに参考になります。
- Padgett, J. F. (1980). Managing garbage can hierarchies. Administrative Science Quarterly, 25(4), 583–604. 階層構造を加えてゴミ箱モデルを数理的に拡張した研究で、モデルの形式的な発展を知りたいときに役立ちます。
- March, J. G., & Olsen, J. P. (1984). The new institutionalism: Organizational factors in political life. American Political Science Review, 78(3), 734–749. ゴミ箱モデルの著者たちが新制度論を提案した論文で、モデルが政治学の制度研究につながった流れがわかります。
- Kingdon, J. W. (1984). Agendas, Alternatives, and Public Policies. Boston: Little, Brown. ゴミ箱モデルを政策アジェンダ設定に応用した多重流モデルの原典で、公共政策への拡張を理解するのに参考になります。
- Bendor, J., Moe, T. M., & Shotts, K. W. (2001). Recycling the garbage can: An assessment of the research program. American Political Science Review, 95(1), 169–190. 原論文のシミュレーションが言葉による説明と違うはたらきをするという鋭い批判で、モデルを批判的に評価するのに役立ちます。
- Cohen, M. D., March, J. G., & Olsen, J. P. (2012). "A garbage can model" at forty: A solution that still attracts problems. Research in the Sociology of Organizations, 36, 19–30. 40年後に原著者たちがモデルを振り返った文章で、批判への応答とその後の研究の流れを整理するのに参考になります。
