概念の誕生
才能と努力のどちらが成功を左右するのかという問いは古くからあります。フランシス・ゴルトンは『遺伝的天才』(1869年)で、傑出した人物には能力に加えて熱意と働き続ける力があると書きました。2007年、アンジェラ・ダックワースとクリストファー・ピーターソンらはこれを「長期的な目標に対する粘り強さと情熱」と定義し、グリットと名づけました。グリットは、関心が移り変わりにくい「興味の一貫性」と、挫折しても努力を続ける「努力の粘り強さ」の二つの側面で測定されます。12項目の尺度(2007年)と8項目の短縮版Grit-S(2009年)が代表的です。
主な研究結果
初期の研究では、グリットはIQとは別に、米陸軍士官学校(ウェストポイント)新入生が過酷な夏季訓練をやり遂げるか、全米スペリング・ビーでどこまで勝ち進むか、名門大学の学生の成績を予測しました。2014年の研究は、陸軍特殊部隊の選抜、営業職の定着、高校の卒業、結婚の継続でも、グリットの高い人ほど途中でやめにくいと報告しています。ダックワースは著書『やり抜く力 GRIT』(2016年)でこれを広め、エリクソンの「意図的な練習」研究(1993年)、ドゥエックの成長マインドセット、ミシェルのマシュマロ実験、フローとともに、非認知能力をめぐる議論を代表する概念となりました。
批判と評価
2017年、マーカス・クレデらは88サンプル・6万人超を統合したメタ分析で、グリットと成果の関連は中程度にとどまり、ビッグファイブの誠実性と大きく重なるため新しい概念とはいいにくいと指摘しました。予測力の大半は「努力の粘り強さ」によるもので、「興味の一貫性」の寄与は小さかったとされます。自己報告式尺度の限界や、個人の粘り強さを強調することで貧困や差別といった構造的な要因が見えにくくなるという懸念もあります。一方で、自己決定理論や達成動機理論とあわせて読むと、意味のある目標と内発的な興味が長期的な努力を支えるという点で示唆があると評価されています。
よくある質問
- グリットは生まれつき?
- 双生児研究ではグリットの一部に遺伝の影響があると報告されていますが、年齢とともに得点が上がる傾向もあり、経験や環境の影響も大きいと解釈されています。
- グリットと誠実性は同じ?
- 非常に近い概念です。メタ分析では両者の相関が高く、グリットを誠実性の一側面とみなす研究者も多くいます。ダックワースは長期目標への一貫性が違いだと説明しています。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Galton, F. (1869). Hereditary Genius: An Inquiry into Its Laws and Consequences. London: Macmillan.
- Mischel, W., Shoda, Y., & Rodriguez, M. L. (1989). Delay of gratification in children. Science, 244(4907), 933–938.
- Ericsson, K. A., Krampe, R. T., & Tesch-Römer, C. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological Review, 100(3), 363–406.
- Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. New York: Random House.
- Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92(6), 1087–1101.
- Duckworth, A. L., & Quinn, P. D. (2009). Development and validation of the Short Grit Scale (Grit-S). Journal of Personality Assessment, 91(2), 166–174.
- Moffitt, T. E., et al. (2011). A gradient of childhood self-control predicts health, wealth, and public safety. PNAS, 108(7), 2693–2698.
- Eskreis-Winkler, L., Shulman, E. P., Beal, S. A., & Duckworth, A. L. (2014). The grit effect: Predicting retention in the military, the workplace, school and marriage. Frontiers in Psychology, 5, 36.
- Duckworth, A. (2016). Grit: The Power of Passion and Perseverance. New York: Scribner.
- Credé, M., Tynan, M. C., & Harms, P. D. (2017). Much ado about grit: A meta-analytic synthesis of the grit literature. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 492–511.
