成立の過程
キングの目標達成理論は、米国の看護理論家アイモジン・キング(1923–2007)が築いた理論です。セントルイスで看護教育を受けた彼女は、1960年代に米国保健教育福祉省の看護部門で働くなかで、看護の知識が急増しているのにそれを束ねる枠組みがないことに問題意識をもちました。「看護師は何を根拠に判断を下しているのか」という問いを出発点に、1971年の『看護の理論化(Toward a Theory for Nursing)』でまず概念枠組みを示し、1981年の『キング看護理論(A Theory for Nursing: Systems, Concepts, Process)』でそこから目標達成理論を導き出しました。
当時は大理論と臨床実践との隔たりが大きく、キングは抽象的なシステム理論の上に検証可能な命題をもつ中範囲理論を築くことで、その溝を埋めようとしました。関係そのものを治療的と見るペプロウの流れを受け継ぎながら、関係の「目的」を明確に定義した点に独自性があります。
3つの相互作用システム
相互作用システムの枠組みは、3つの開放システムが重なり合う構造です。個人システムは知覚・自己・成長発達・ボディイメージ・時間・空間、個人間システムは相互作用・コミュニケーション・トランザクション・役割・ストレス、社会システムは組織・権威・権力・地位・意思決定といった概念で説明されます。看護師と患者はそれぞれの個人システムとして出会って個人間システムをつくり、その出会いは病院や家族といった社会システムのなかで起こります。
知覚からトランザクションへ
理論の核心は、看護師と患者が互いを知覚し判断して行為し、相手が反応することで相互作用が生まれ、そのなかで目標をともに定め、手段を探って合意するトランザクションが成立したとき、目標が達成されるという考え方です。キングは「知覚が正確でトランザクションが成立すれば目標は達成され、目標の達成は満足と効果的な看護につながる」といった検証可能な命題を示しました。これを記録に落とし込んだ目標志向型看護記録も考案しており、経営学の目標管理(MBO)に似ているともいわれます。
臨床での活用
慢性疾患の管理のように、患者の参加が結果を左右する領域で特に役立ちます。たとえば2型糖尿病の患者との面談で、看護師が一方的に「血糖の正常化」を掲げるのではなく、患者が大切にしている「孫と散歩できる体力」を一緒に確かめ、「夕食後20分のウォーキングと週3回の血糖記録」に合意する――このプロセスこそがトランザクションです。こうした目標の共同設定は自己効力感を高める働きとも重なります。
評価と限界
看護目標を患者と共有し、成果で評価する方法を体系化した点で、現在の患者中心の看護や共同意思決定(SDM)の先駆けとなり、命題が明確なため研究による検証も盛んに行われました。一方、言語的コミュニケーションと合理的な意思決定ができる患者を前提としているため、意識障害や重度の認知障害のある人、乳児には適用しにくく、社会システムの概念は比較的発展が遅れているとの指摘があります。
関連項目
看護理論 · ペプロウの人間関係論 · ニューマンのシステムモデル · 一般システム理論 · 自己効力感
よくある質問
- 相互作用とトランザクションの違いは?
- 相互作用は知覚とコミュニケーションのやりとり全体、トランザクションはそのなかで目標と手段について実際に合意が成立した瞬間を指します。
- 大理論ですか、中範囲理論ですか?
- 相互作用システムの枠組みは大理論レベルの概念枠組みで、そこから導かれた目標達成理論は中範囲理論に分類されます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- King, I. M. (1971). Toward a Theory for Nursing: General Concepts of Human Behavior. New York: Wiley.
- King, I. M. (1981). A Theory for Nursing: Systems, Concepts, Process. New York: Wiley.
- King, I. M. (1997). King's theory of goal attainment in practice. Nursing Science Quarterly, 10(4), 180–185.
- Alligood, M. R. (Ed.). (2021). Nursing Theorists and Their Work (10th ed.). Elsevier.
