リビドーとは?
リビドーはラテン語で「欲望」を意味し、フロイトが性的欲動の心的エネルギーを指して用いた用語です。ここでいう「性的」は広い意味で、大人の性行為だけでなく、吸う、排泄する、触れるといった身体から得られる快感全般を含みます。フロイトは『性理論三篇』(1905年)で、子どもにも性的衝動がある(「幼児性欲」)と論じ、これがリビドー理論の出発点となりました。精神分析のより広い構造はフロイトの精神分析理論で扱っています。
心理性的発達段階
フロイトは、リビドーが集中する身体部位が年齢とともに移り変わると考え、五つの段階を示しました。
- 口唇期(およそ0〜1歳):吸うことや授乳から得られる快。
- 肛門期(およそ1〜3歳):ためることと出すことの快。トイレットトレーニングによって初めて統制と規則を経験する。
- 男根期(およそ3〜6歳):性器への関心とエディプス・コンプレックス。同性の親への同一視によって超自我が形成される。
- 潜伏期(6歳〜思春期):性的関心が抑圧され、エネルギーは学校や仲間関係に向かう。
- 性器期(思春期以降):成熟した愛情関係と仕事における満足。
固着と人格
ある段階の欲求があまりに満たされなかったり、逆に過剰に満たされたりすると、リビドーの一部がそこにとどまります。これが固着です。口唇期への固着は過食、喫煙、依存性と結びつけられ、肛門期への固着は過度の几帳面さやけち(肛門保持的性格)、あるいはその逆のだらしなさと結びつけられました。ストレス下で固着した段階の行動に戻ることを退行といいます。
概念の変化
- 自我リビドーと対象リビドー:「ナルシシズム入門」(1914年)でフロイトは、自分自身に向けられるリビドー(ナルシシズム)と、他者や対象に向けられるリビドーを区別した。
- 生の本能と死の本能:『快感原則の彼岸』(1920年)でフロイトは、リビドーを含む生の本能(エロス)と、破壊や攻撃に向かう死の本能(タナトス)からなる二元的本能論へと理論を組み替えた。
- 昇華:リビドーのエネルギーを芸術や学問など社会的に価値ある活動へ向け直す防衛機制。
ユングとその後の修正
カール・ユングは『リビドーの変容と象徴』(1912年)で、リビドーを性的なものではなく、あらゆる精神活動を動かす一般的な心的エネルギーとみなしました。この意見の相違が、フロイトとの協力関係が終わる一因となりました。
その後、精神分析の関心は欲動から関係へと移りました。フェアベーンは、リビドーは快ではなく対象(人)を求めると主張し、エリクソンは心理性的段階を社会的関係を中心とする心理社会的段階として捉え直しました。乳児と養育者の絆を欲動の快ではなく安心の追求として説明するボウルビィの愛着理論も、同じ流れに属します。
批判
- リビドーや固着のような概念は観察や測定が難しく、理論を科学的に検証しにくい。
- フロイトは子どもの発達について、主に成人患者の回想から一般化した。
- 理論は性を過度に強調しており、エディプス・コンプレックスなどの考えは男性中心的だと批判されてきた。
- それでも、幼少期の経験が人格を形づくるという考えは、発達心理学やカウンセリングに永続的な影響を残した。
参考文献
- Freud, S. (1905). Drei Abhandlungen zur Sexualtheorie [Three Essays on the Theory of Sexuality]. Leipzig: Deuticke.
- Jung, C. G. (1912). Wandlungen und Symbole der Libido [Transformations and Symbols of the Libido]. Leipzig: Deuticke.
- Freud, S. (1914). Zur Einführung des Narzißmus [On Narcissism: An Introduction]. Jahrbuch der Psychoanalyse, 6, 1–24.
- Freud, S. (1920). Jenseits des Lustprinzips [Beyond the Pleasure Principle]. Leipzig: Internationaler Psychoanalytischer Verlag.
- Fairbairn, W. R. D. (1952). Psychoanalytic Studies of the Personality. London: Tavistock/Routledge & Kegan Paul.