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マルコフ連鎖

➗ 数学・統計 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
マルコフ連鎖とは、未来の状態の確率が過去の履歴全体ではなく現在の状態だけで決まる「マルコフ性」をもち、状態の間を確率的に移り変わる過程です。
目次
  1. 1. 定義と基本構造
  2. 2. 定常分布と長期的なふるまい
  3. 3. 主な応用
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

定義と基本構造

ロシアの数学者アンドレイ・マルコフは1906年、互いに依存する確率変数でも大数の法則が成り立ちうることを示すためにこの過程を初めて研究しました。独立性が大数の法則に不可欠だという主張に反論する意図があったとされます。マルコフ連鎖では、今日雨なら明日雨が降る確率が決まっており、その確率は昨日や一昨日の天気とは関係ありません。これを「マルコフ性」または無記憶性といいます。ある状態から別の状態へ移る確率を推移確率、それをまとめた表を推移行列と呼び、推移行列を何度も掛けると数ステップ先の状態の確率を計算できます。マルコフは1913年、プーシキンの小説『エヴゲーニイ・オネーギン』の文字2万字を数えて母音と子音の続き方を分析しており、これは言語に確率モデルを適用した初期の例とされます。

定常分布と長期的なふるまい

どの状態からも他のすべての状態へ到達でき(既約性)、一定の周期に閉じ込められない(非周期性)有限マルコフ連鎖は、出発点にかかわらず唯一の定常分布へ収束します。定常分布は、長い時間がたった後に各状態に滞在する時間の割合を表します。コルモゴロフ(1936年)がこの理論を体系化し、ケメニーとスネル(1960年)、ノリス(1997年)の教科書が標準となりました。定常分布にどれだけ早く近づくかを扱う「混合時間」の研究はレヴィン、ペレス、ウィルマー(2009年)がまとめています。この性質はモンテカルロ法のMCMCが機能する原理でもあり、目標の分布を定常分布にもつ連鎖をつくって十分長く動かせば、その分布から標本が得られます。

主な応用

シャノン(1948年)は情報理論で英語のテキストをマルコフ過程としてモデル化し、文の生成例を示しました。観測できない状態がマルコフ連鎖に従い、出力だけが見える隠れマルコフモデルは、バウムとペトリー(1966年)が基礎を築き、ラビナー(1989年)が整理して、音声認識やバイオインフォマティクスの中核的な道具となりました。経済学ではハミルトン(1989年)が、景気の拡張と後退の局面がマルコフ連鎖に従って切り替わるとするマルコフ・スイッチング・モデルを提案しました。ブリンとペイジ(1998年)のページランクは、ウェブをランダムに巡回する利用者の定常分布でページの重要度を計算します。ベルマン(1957年)のマルコフ決定過程は強化学習や人工知能の意思決定モデルの基礎となり、待ち行列、信用格付けの推移、人口移動の分析にも使われています。

よくある質問

マルコフ性とは何ですか?
未来の状態の確率が、そこに至った経路とは無関係に現在の状態だけで決まる性質です。「現在が与えられれば未来と過去は独立」とも表現されます。
マルコフ連鎖は何に使われていますか?
検索エンジンのページランク、音声認識の隠れマルコフモデル、ベイズ統計のMCMC、景気局面の分析、強化学習のマルコフ決定過程など、非常に幅広い分野で使われています。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Markov, A. A. (1906). Rasprostranenie zakona bol'shih chisel na velichiny, zavisyaschie drug ot druga. Izvestiya Fiziko-matematicheskogo obschestva pri Kazanskom universitete, 15(2), 135–156.
  2. Markov, A. A. (1913). An example of statistical investigation of the text Eugene Onegin concerning the connection of samples in chains. Bulletin of the Imperial Academy of Sciences of St. Petersburg, 7(3), 153–162.
  3. Kolmogorov, A. N. (1936). Zur Theorie der Markoffschen Ketten. Mathematische Annalen, 112, 155–160.
  4. Shannon, C. E. (1948). A mathematical theory of communication. Bell System Technical Journal, 27(3), 379–423.
  5. Kemeny, J. G., & Snell, J. L. (1960). Finite Markov Chains. Princeton, NJ: Van Nostrand.
  6. Bellman, R. (1957). A Markovian decision process. Journal of Mathematics and Mechanics, 6(5), 679–684.
  7. Baum, L. E., & Petrie, T. (1966). Statistical inference for probabilistic functions of finite state Markov chains. Annals of Mathematical Statistics, 37(6), 1554–1563.
  8. Rabiner, L. R. (1989). A tutorial on hidden Markov models and selected applications in speech recognition. Proceedings of the IEEE, 77(2), 257–286.
  9. Hamilton, J. D. (1989). A new approach to the economic analysis of nonstationary time series and the business cycle. Econometrica, 57(2), 357–384.
  10. Brin, S., & Page, L. (1998). The anatomy of a large-scale hypertextual Web search engine. Computer Networks and ISDN Systems, 30(1–7), 107–117.
  11. Norris, J. R. (1997). Markov Chains. Cambridge: Cambridge University Press.
  12. Levin, D. A., Peres, Y., & Wilmer, E. L. (2009). Markov Chains and Mixing Times. Providence, RI: American Mathematical Society.
  13. Hayes, B. (2013). First links in the Markov chain. American Scientist, 101(2), 92–97.

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この記事は2026年10月26日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。