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センのリベラル・パラドックス

📈 経済学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
センのリベラル・パラドックスとは、アマルティア・センが1970年の論文「パレート派リベラルの不可能性」で証明した社会的選択理論の定理です。あらゆる個人の選好を認める定義域の非制限、全員がXをYより好むなら社会もそうすべきだというパレート原理、そして少なくとも二人に自分だけの私的領域で社会的選択を決める権利を与える最小限のリベラリズムを、同時に満たす社会的決定関数は存在しない、という内容です。効率性と個人の自由が衝突しうることを示しています。
目次
  1. 1. 定理の内容と例
  2. 2. 解決策をめぐる議論
  3. 3. 権利の解釈と含意
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

定理の内容と例

セン(1970年)は、アローの不可能性定理(アロー、1951年)が推移性や無関係な選択肢からの独立性など複数の条件を必要としたのに対し、はるかに弱い条件だけでも不可能性が生じることを示しました。彼が挙げた例が『チャタレイ夫人の恋人』です。本は一冊しかなく、お堅い人Pと開放的な人Lがいます。Pは誰も読まないことを最も好み、次に自分が読むこと、最も嫌なのはLが読むことです。Lは、Pが読むことを最も好み、次に自分が読むこと、最も嫌なのは誰も読まないことです。リベラリズムによれば、Pは自分が読むかどうかを決められるので「誰も読まない」が「Pが読む」より望ましく、Lも自分の読書を決められるので「Lが読む」が「誰も読まない」より望ましくなります。ところが二人とも「Pが読む」を「Lが読む」より好むので、パレート原理により「Pが読む」が「Lが読む」より望ましくなります。こうして社会的な選好が循環し、最善の選択肢を決められなくなるのです。

解決策をめぐる議論

ギバード(1974年)は、自分の権利の行使がほかの人の権利の行使と衝突するときにはその権利を放棄させる「権利放棄」型のリベラリズムの条件を提案し、パレート原理と両立できるようにしました。ブラウ(1975年)は、他人の私的領域についての選好が強すぎる「おせっかいな」選好を問題の原因とみなし、そうした選好を取り除く方法を検討しました。セン(1976年)はこれに応えて、他人の私生活についての選好を尊重しないことこそがリベラリズムの精神でありうること、そしてパレート原理はそれ自体でつねに正当化されるわけではないことを強調しました。これは、パレート最適を厚生経済学の最低限の基準とみなしてきた伝統への挑戦でした。

権利の解釈と含意

ノージック(1974年)は、権利は社会状態の順位づけの問題としてではなく、人々がそれぞれ選べる範囲を限定する制約として理解すべきだと批判しました。これを発展させたゲルデンフォシュ(1981年)、サグデン(1985年)、ゲルトナー、パタナイク、鈴村(1992年)は、権利を社会的な選好順序ではなくゲーム形式として、つまり各自が許された戦略の集合のなかから自由に選ぶものとしてモデル化しました。セン(1992年)は、ゲーム形式の解釈は有用だが、それだけでパラドックスが解消されるわけではないと応じています。鈴村(1983年)は、この問題を合理的選択と社会的厚生の関係のなかで体系化しました。このパラドックスは、社会的選択理論においてギバード=サタースウェイトの定理とともに代表的な不可能性の結果とされ、効率性と個人の自由をともに追求する制度設計に根本的な問いを投げかけています。

よくある質問

センのリベラル・パラドックスを簡単に言うと?
全員が望む結果に従うという原理と、各自が自分のことは自分で決めるという自由の原理が、同時には守れない場合があるという定理です。他人の私生活についての選好が入り込むと、二つの原理がぶつかってしまいます。
このパラドックスはどう解決できるのですか?
唯一の正解はありません。他人の私的領域についての選好を無視する、権利をゲームで各自が選べる範囲として解釈する、衝突するときは権利を譲らせるなど、さまざまな解決策が示されてきましたが、それぞれに代償がともないます。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Arrow, K. J. (1951). Social Choice and Individual Values. New York: Wiley.
  2. Sen, A. (1970). The impossibility of a Paretian liberal. Journal of Political Economy, 78(1), 152–157.
  3. Sen, A. (1970). Collective Choice and Social Welfare. San Francisco: Holden-Day.
  4. Gibbard, A. (1974). A Pareto-consistent libertarian claim. Journal of Economic Theory, 7(4), 388–410.
  5. Nozick, R. (1974). Anarchy, State, and Utopia. New York: Basic Books.
  6. Blau, J. H. (1975). Liberal values and independence. Review of Economic Studies, 42(3), 395–401.
  7. Sen, A. (1976). Liberty, unanimity and rights. Economica, 43(171), 217–245.
  8. Gärdenfors, P. (1981). Rights, games and social choice. Noûs, 15(3), 341–356.
  9. Suzumura, K. (1983). Rational Choice, Collective Decisions, and Social Welfare. Cambridge: Cambridge University Press.
  10. Sugden, R. (1985). Liberty, preference, and choice. Economics and Philosophy, 1(2), 213–229.
  11. Sen, A. (1992). Minimal liberty. Economica, 59(234), 139–159.
  12. Gaertner, W., Pattanaik, P. K., & Suzumura, K. (1992). Individual rights revisited. Economica, 59(234), 161–177.

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。