ビール工場から生まれた統計
1900年代初め、ダブリンのギネス醸造所は大麦とホップの品質を科学的に管理するため、オックスフォード出身の化学者を採用しました。その一人ウィリアム・シーリー・ゴセットは、試料が数個しかないときに正規分布をそのまま使うと誤差が過小評価されることに気づきます。会社が企業秘密の流出を恐れて実名での発表を認めなかったため、彼は1908年に「Student」の筆名で論文を発表し、この分布は「スチューデントのt分布」と呼ばれるようになりました。のちにロナルド・フィッシャーが一般化し、現代統計の中核的な道具になりました。
仕組みと種類
t値は「平均の差÷標準誤差」で、群間の差が標本内のばらつき(標準偏差)に比べてどれだけ大きいかを表します。自由度が小さいほどt分布は裾が厚く、有意になるにはより大きなt値が必要で、標本が大きくなると正規分布に近づきます。1標本t検定は1群の平均を基準値と、対応のないt検定は別々の2群を、対応のあるt検定は同じ人の前後の値を比べます。2群の分散が異なる場合は1947年にウェルチが提案したウェルチのt検定がより安全で、現在Rの既定値でもあります。
前提と解釈
t検定は各群がおおむね正規分布に従い、観測値が互いに独立であることを前提とします。1群あたり30程度を超えれば中心極限定理により正規性の崩れにかなり強くなります。結果はp値で判断しますが、p値だけでは差の大きさは分からないため、コーエンのdなどの効果量と信頼区間を併せて報告するのが望ましいです。3群以上でt検定を繰り返すと第一種の過誤が増えるので分散分析(ANOVA)を使います。WebサイトのA/Bテストでも平均滞在時間の比較によく使われます。
よくある質問
- t検定とz検定の違いは?
- 母集団の標準偏差が既知ならz検定、標本から推定するならt検定を使います。
- 標本はいくつ必要?
- 厳密な下限はありませんが、1群20〜30以上あると結果が安定します。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Student. (1908). The probable error of a mean. Biometrika, 6(1), 1–25.
- Welch, B. L. (1947). The generalization of 'Student's' problem. Biometrika, 34, 28–35.
- Box, J. F. (1987). Guinness, Gosset, Fisher, and small samples. Statistical Science, 2(1), 45–52.
