登場の背景
1960〜70年代、米国の大企業は多くの業種を抱える多角化企業となり、限られた資金をどの事業に配分するかが大きな課題になりました。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の創業者ブルース・ヘンダーソン(1970)は、各事業を一つの「ポートフォリオ」とみなし、資金を生む事業と資金を使う事業のバランスをとる成長率・シェア・マトリクスを提案しました。ヘドリー(1977)はこれを多角化企業の戦略策定手法として体系化しました。
二つの軸
- 市場成長率(縦軸):事業が属する市場の年成長率で、一般に10%前後を境に高低を分けます。成長市場ではシェアを守るだけでも多くの投資が必要です。
- 相対的市場シェア(横軸):自社シェアを最大の競合のシェアで割った値で、1.0を超えれば市場トップです。シェアが高いほど累積生産量が多く、経験曲線(累積生産量が2倍になるごとに単位コストが一定率で下がる)によってコストが低く、資金創出力が大きいと考えました。
四つの事業タイプと戦略
- 花形(Star):高成長・高シェア。収益は大きいが成長についていくための投資も大きく、シェアを維持・拡大する育成戦略をとります。
- 金のなる木(Cash Cow):低成長・高シェア。投資負担が小さく余剰資金が多く、他事業の資金源になります。シェアを維持して資金を回収します。
- 問題児(Question Mark):高成長・低シェア。多くの資金を消費し将来は不確実で、集中投資して花形に育てるか撤退するかを選択します。
- 負け犬(Dog):低成長・低シェア。収益も成長見通しも低く、収穫または撤退が原則です。
理想は、金のなる木の資金を問題児に投じて花形に育て、市場の成熟とともに花形が金のなる木になる「成功の循環」です。逆に問題児がシェアを得られないまま市場が成熟すると負け犬に転落します。
活用と他のモデルとの比較
BCGマトリクスは事業部ごとの資源配分、リストラ対象の選定、製品ラインの管理に広く使われました。二軸を「市場魅力度」と「事業の強み」という複数要因の総合評価に置き換えたGE・マッキンゼー・マトリクス(9セル)がこれを補完しています。産業構造を見るファイブフォース分析、内部能力と外部環境をあわせて見るSWOT分析とともに、経営戦略の基本ツールとして扱われます。
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限界と批判
- 二つの変数だけで事業の魅力と競争力を判断するため、単純すぎます。
- 市場の定義しだいでシェアと成長率が大きく変わります。
- シェアと収益性の関係はすべての産業で成り立つわけではありません。ハンブリックら(1982)のPIMSデータ分析でも四タイプ間の成果の差は確認されましたが、負け犬事業が必ず赤字というわけではありませんでした。
- 事業間のシナジーや、差別化で高収益をあげるニッチ戦略を考慮できず、「負け犬」というレッテルが従業員の士気を下げるという指摘もあります。
関連項目: 製品ライフサイクル理論
参考文献
- Henderson, B. D. (1970). The Product Portfolio (BCG Perspectives). Boston: The Boston Consulting Group.
- Hedley, B. (1977). Strategy and the "business portfolio". Long Range Planning, 10(1), 9–15.
- Hambrick, D. C., MacMillan, I. C., & Day, D. L. (1982). Strategic attributes and performance in the BCG matrix: A PIMS-based analysis of industrial product businesses. Academy of Management Journal, 25(3), 510–531.