仕組み:脂肪を燃料に切り替える
ふだん体は主にブドウ糖を燃料にし、余りを肝臓や筋肉にグリコーゲンとして蓄えます。絶食したり糖質を1日およそ20〜50g以下に減らしたりすると、1〜3日でグリコーゲンが尽き、インスリン値が下がります。すると脂肪組織から放出された脂肪酸が肝臓に運ばれ、β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンといったケトン体に変わります。脳は脂肪酸を直接使えませんがケトン体は使えるため、長期の絶食では脳のエネルギーの半分以上をケトン体がまかなうことがハーバード大学のジョージ・ケーヒルの研究で示されました。血中ケトン体がおよそ0.5mmol/L以上になった状態をケトーシスと呼び、甘酸っぱいアセトン臭の息が代表的なサインです。
ケトジェニック食:根拠と限界
ケトーシスを意図的に保つ食事法がケトジェニックダイエットです。もともと1920年代に米国メイヨー・クリニックで薬が効きにくい小児てんかんの治療として開発され、2008年の英国のランダム化比較試験でも発作を有意に減らしました。減量では最初の数週間にグリコーゲンとともに水分が抜けるため効果が大きく見えますが、1年以上の研究では他のカロリー制限食と大差がないことが多いです。血糖管理には役立つ場合がある一方、LDLコレステロールが大きく上がる人もいます。間欠的断食でも空腹時間に軽いケトーシスが起こります。始めたばかりの頭痛・だるさ・めまい(ケトフルー)は主に水分とナトリウムの喪失によるものです。
ケトーシスとケトアシドーシスは違う
栄養的ケトーシスでは残っているインスリンがケトン体の産生を抑えるため、血中濃度はふつう3mmol/L未満にとどまり血液の酸性度も正常です。一方、糖尿病ケトアシドーシス(DKA)はインスリンがほぼない状態でケトン体が制御なく増え、10mmol/Lを超えて血液が酸性に傾く救急疾患です。主に1型糖尿病の人がインスリンを中断したり感染症にかかったりしたときに起こり、SGLT2阻害薬を使う人では血糖がそれほど高くなくても起こり得ます。糖尿病の薬を使っている人、妊娠中の人、腎臓や肝臓の病気がある人は、糖質制限を始める前に必ず医療者に相談してください。
この記事は一般的な健康情報であり、診断や治療に代わるものではありません。症状が続く場合は医師に相談してください。
よくある質問
- ケトーシスに入ったかどうかはどうやってわかりますか?
- 血中ケトン測定器が最も正確です(約0.5mmol/L以上)。尿試験紙は手軽ですが、体が慣れるほど正確さが下がります。息のにおいや食欲の低下もよくあるサインです。
- ケトフルーを和らげるには?
- 水を十分に飲み、スープや塩でナトリウムを補うと多くは数日で治まります。症状が重い、または長引く場合は中止して受診してください。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Cahill, G. F. (2006). Fuel metabolism in starvation. Annual Review of Nutrition, 26, 1–22.
- Neal, E. G., et al. (2008). The ketogenic diet for the treatment of childhood epilepsy: a randomised controlled trial. The Lancet Neurology, 7(6), 500–506.
- Kitabchi, A. E., et al. (2009). Hyperglycemic crises in adult patients with diabetes. Diabetes Care, 32(7), 1335–1343.
- Hall, K. D., et al. (2021). Effect of a plant-based, low-fat diet versus an animal-based, ketogenic diet on ad libitum energy intake. Nature Medicine, 27, 344–353.
