条件付き確率の取り違え
検察官の誤謬の核心は、P(証拠|無実)とP(無実|証拠)を同じものとみなしてしまう点にあります。この2つはベイズの定理で結ばれ、そのあいだには事前確率、つまり証拠を見る前に被告人が犯人である可能性が入り込みます。人口1000万人の都市で、偶然一致する確率が100万分の1の血痕が見つかったとすると、偶然一致する人がおよそ10人いると見込まれます。ほかの証拠がなく一致だけで逮捕された人であれば、その人が犯人である確率は100万分の99万9999ではなく、おおよそ11分の1に近いのです。トンプソンとシューマン(1987年)は、模擬陪審の実験で多くの人がこの誤りを犯すことを示しました。事前確率を無視するという点で、基準率の誤りの一形態でもあります。
法廷の事例とDNA証拠
1968年のカリフォルニア州最高裁判所のコリンズ事件で、検察は犯人の特徴の確率を掛け合わせ、無実のカップルがそれらの特徴をすべてもつ確率は1200万分の1だと主張しましたが、裁判所は特徴が互いに独立だという仮定と確率の解釈の両方を問題視し、有罪判決を覆しました。フィンケルスタインとフェアリー(1970年)はベイズ的な証拠評価を提案し、トライブ(1971年)は法廷における数学的推論の危険を警告しました。ケーラー(1993年)やボールディングとドネリー(1994年)は、DNA証拠の偶然一致の確率が検察官の誤謬によって誤って提示された事例を分析しています。イギリスのサリー・クラーク事件(1999年)では、ひとつの家庭で乳幼児突然死が2度起こる確率は7300万分の1だという証言が有罪の根拠となりました。これは2つの死が独立だと誤って仮定したうえ、その確率を無実である確率のように提示したものでした。ヒル(2004年)やノーブルズとシフ(2005年)がこの統計の誤用を分析しており、有罪判決は2003年の控訴審で破棄されました。
弁護人の誤謬とベイズ的な評価
トンプソンとシューマン(1987年)は、逆方向の「弁護人の誤謬」も指摘しました。一致する人が何十人もいるのだから、被告人が犯人である確率はそのうちの1人分にすぎず、証拠には意味がないと主張するもので、証拠によって容疑者の範囲が大きく絞り込まれたという事実を無視しています。ロバートソンとヴィニョー(1995年)やエイトキンとタローニ(2004年)は、証拠の強さを、有罪の仮説と無罪の仮説のもとでその証拠が現れる確率の比、つまり尤度比で表すアプローチを、法科学の標準として整理しました。ダウィド(2002年)は陪審員による証拠の評価をベイズの定理で分析し、フェントンとニール(2011年)やフェントン、ニール、ラグナド(2013年)は、ベイジアンネットワークによって複雑な証拠どうしの依存関係をモデル化する方法を示しました。ギーゲレンツァー(2002年)は、こうした確率の情報を自然頻度で表すと、法律家や陪審員の理解が大きく改善することを示しています。
よくある質問
- 検察官の誤謬を簡単に言うと?
- 「無実の人が偶然この証拠と一致する確率はとても低い」という事実を、「この人が無実である確率はとても低い」と読み替えてしまう間違いです。2つの確率はまったく異なる値になりえます。
- なぜ「検察官の」誤謬と呼ぶのですか?
- この推論は主に被告人に不利に働き、証拠が有罪を強く裏づけているかのように見せてしまうからです。実際には検察官だけでなく、専門家証人、裁判官、陪審員、報道機関も同じ誤りを犯しえます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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