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検察官の誤謬

🔬 自然科学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
検察官の誤謬とは、「被告人が無実だとしたら、このような証拠が出る確率」を「このような証拠があるとき、被告人が無実である確率」と混同してしまう確率的推論の誤りです。たとえば、無作為に選んだ人のDNAが一致する確率が100万分の1であることから、被告人が無実である確率も100万分の1だと結論づけてしまうのです。ウィリアム・トンプソンとエドワード・シューマンが1987年に名づけたもので、条件付き確率を取り違える一般的な推論の誤りの代表例です。
目次
  1. 1. 条件付き確率の取り違え
  2. 2. 法廷の事例とDNA証拠
  3. 3. 弁護人の誤謬とベイズ的な評価
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

条件付き確率の取り違え

検察官の誤謬の核心は、P(証拠|無実)とP(無実|証拠)を同じものとみなしてしまう点にあります。この2つはベイズの定理で結ばれ、そのあいだには事前確率、つまり証拠を見る前に被告人が犯人である可能性が入り込みます。人口1000万人の都市で、偶然一致する確率が100万分の1の血痕が見つかったとすると、偶然一致する人がおよそ10人いると見込まれます。ほかの証拠がなく一致だけで逮捕された人であれば、その人が犯人である確率は100万分の99万9999ではなく、おおよそ11分の1に近いのです。トンプソンとシューマン(1987年)は、模擬陪審の実験で多くの人がこの誤りを犯すことを示しました。事前確率を無視するという点で、基準率の誤りの一形態でもあります。

法廷の事例とDNA証拠

1968年のカリフォルニア州最高裁判所のコリンズ事件で、検察は犯人の特徴の確率を掛け合わせ、無実のカップルがそれらの特徴をすべてもつ確率は1200万分の1だと主張しましたが、裁判所は特徴が互いに独立だという仮定と確率の解釈の両方を問題視し、有罪判決を覆しました。フィンケルスタインとフェアリー(1970年)はベイズ的な証拠評価を提案し、トライブ(1971年)は法廷における数学的推論の危険を警告しました。ケーラー(1993年)やボールディングとドネリー(1994年)は、DNA証拠の偶然一致の確率が検察官の誤謬によって誤って提示された事例を分析しています。イギリスのサリー・クラーク事件(1999年)では、ひとつの家庭で乳幼児突然死が2度起こる確率は7300万分の1だという証言が有罪の根拠となりました。これは2つの死が独立だと誤って仮定したうえ、その確率を無実である確率のように提示したものでした。ヒル(2004年)やノーブルズとシフ(2005年)がこの統計の誤用を分析しており、有罪判決は2003年の控訴審で破棄されました。

弁護人の誤謬とベイズ的な評価

トンプソンとシューマン(1987年)は、逆方向の「弁護人の誤謬」も指摘しました。一致する人が何十人もいるのだから、被告人が犯人である確率はそのうちの1人分にすぎず、証拠には意味がないと主張するもので、証拠によって容疑者の範囲が大きく絞り込まれたという事実を無視しています。ロバートソンとヴィニョー(1995年)やエイトキンとタローニ(2004年)は、証拠の強さを、有罪の仮説と無罪の仮説のもとでその証拠が現れる確率の比、つまり尤度比で表すアプローチを、法科学の標準として整理しました。ダウィド(2002年)は陪審員による証拠の評価をベイズの定理で分析し、フェントンとニール(2011年)やフェントン、ニール、ラグナド(2013年)は、ベイジアンネットワークによって複雑な証拠どうしの依存関係をモデル化する方法を示しました。ギーゲレンツァー(2002年)は、こうした確率の情報を自然頻度で表すと、法律家や陪審員の理解が大きく改善することを示しています。

よくある質問

検察官の誤謬を簡単に言うと?
「無実の人が偶然この証拠と一致する確率はとても低い」という事実を、「この人が無実である確率はとても低い」と読み替えてしまう間違いです。2つの確率はまったく異なる値になりえます。
なぜ「検察官の」誤謬と呼ぶのですか?
この推論は主に被告人に不利に働き、証拠が有罪を強く裏づけているかのように見せてしまうからです。実際には検察官だけでなく、専門家証人、裁判官、陪審員、報道機関も同じ誤りを犯しえます。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Finkelstein, M. O., & Fairley, W. B. (1970). A Bayesian approach to identification evidence. Harvard Law Review, 83(3), 489–517.
  2. Tribe, L. H. (1971). Trial by mathematics: Precision and ritual in the legal process. Harvard Law Review, 84(6), 1329–1393.
  3. Thompson, W. C., & Schumann, E. L. (1987). Interpretation of statistical evidence in criminal trials: The prosecutor's fallacy and the defense attorney's fallacy. Law and Human Behavior, 11(3), 167–187.
  4. Koehler, J. J. (1993). Error and exaggeration in the presentation of DNA evidence at trial. Jurimetrics, 34(1), 21–39.
  5. Balding, D. J., & Donnelly, P. (1994). The prosecutor's fallacy and DNA evidence. Criminal Law Review, 711–721.
  6. Robertson, B., & Vignaux, G. A. (1995). Interpreting Evidence: Evaluating Forensic Science in the Courtroom. Chichester: Wiley.
  7. Gigerenzer, G. (2002). Calculated Risks: How to Know When Numbers Deceive You. New York: Simon & Schuster.
  8. Dawid, A. P. (2002). Bayes's theorem and weighing evidence by juries. In R. Swinburne (Ed.), Bayes's Theorem (Proceedings of the British Academy, 113, pp. 71–90). Oxford: Oxford University Press.
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  10. Hill, R. (2004). Multiple sudden infant deaths—coincidence or beyond coincidence? Paediatric and Perinatal Epidemiology, 18(5), 320–326.
  11. Nobles, R., & Schiff, D. (2005). Misleading statistics within criminal trials: The Sally Clark case. Significance, 2(1), 17–19.
  12. Fenton, N., & Neil, M. (2011). Avoiding probabilistic reasoning fallacies in legal practice using Bayesian networks. Australian Journal of Legal Philosophy, 36, 114–151.
  13. Fenton, N., Neil, M., & Lagnado, D. A. (2013). A general structure for legal arguments about evidence using Bayesian networks. Cognitive Science, 37(1), 61–102.

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。