概念と起源
シナリオ・プランニングは、不確実性の高い環境で「何が起こるか」を当てるのではなく「何が起こりうるか」を体系的に想像する戦略手法です。軍事戦略家ハーマン・カーンがランド研究所で発展させ、1970年代にロイヤル・ダッチ・シェルのピエール・ワックが企業戦略に導入しました。シェルは原油価格高騰のシナリオを事前に検討していたため、1973年の石油危機に競合他社より早く対応できたと評価されています(Wack, 1985)。
手順
- 焦点となる問いを定める:扱う意思決定と時間軸(例:10年後の市場)を決めます。
- ドライビングフォースを特定する:社会・技術・経済・環境・政治(STEEP)の変化要因を集めます。
- 確定要素と不確実性を分ける:人口動態のようにほぼ確実な趨勢と、影響は大きいが方向が分からない要因を区別します。
- シナリオの枠組みを作る:影響が大きく不確実性の高い二つの要因を軸に2×2マトリクスを作り、四つの未来を定めます。
- 物語を書く:各シナリオに名前を付け、因果のつながった物語として描きます。
- 戦略的含意を引き出す:すべてのシナリオで通用する戦略と、各シナリオの兆候(先行指標)を見いだします。
予測との違い
従来の予測は最も可能性の高い一つの未来を前提としますが、シナリオ・プランニングは確率を付けず、複数の未来を対等に扱います。シューメーカー(1995)は、この手法が意思決定によくある二つの誤り、すなわち過信と視野狭窄を補うと論じました。
限界
- 多くの時間と参加者の労力を要します。
- 軸の選択を誤ると重要な未来を見落とすことがあります。
- シナリオを予測と取り違えたり、実際の意思決定に結び付けなかったりすると効果がありません。
関連手法
専門家の意見を集めるデルファイ法、内部・外部要因を整理するSWOT分析、産業構造を見るポーターのファイブフォース分析と併用され、起業家が不確実な機会を評価する際にも役立ちます。
参考文献
- Wack, P. (1985). Scenarios: Uncharted waters ahead. Harvard Business Review, 63(5), 72–89.
- Schwartz, P. (1991). The Art of the Long View. New York: Doubleday.
- Schoemaker, P. J. H. (1995). Scenario planning: A tool for strategic thinking. Sloan Management Review, 36(2), 25–40.