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サンクトペテルブルクのパラドックス

📈 経済学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
サンクトペテルブルクのパラドックスとは、ニコラウス・ベルヌーイが1713年に提起し、いとこのダニエル・ベルヌーイが1738年にサンクトペテルブルク科学アカデミーの論文で分析した確率論のパラドックスです。表が出るまでコインを投げ、賞金が毎回2倍になるゲームの期待値は無限大なのに、人々は参加費としてごくわずかな額しか払おうとしません。期待値の最大化だけでは合理的な選択を説明できないことを示しています。
目次
  1. 1. ゲームとパラドックス
  2. 2. ベルヌーイの解決と期待効用理論
  3. 3. 現代的解釈と応用
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

ゲームとパラドックス

コインを投げて初めて表が出たのがn回目なら2ⁿ円もらえるゲームを考えます。1回目に表が出る確率は1/2で賞金2円、2回目は1/4で4円というように、各項の期待値はいずれも1円で、それが限りなく足し合わされるので全体の期待値は無限大になります。ところが実際にこのゲームに大金を払おうとする人はほとんどいません。ニコラウス・ベルヌーイがモンモールとの書簡で初めてこの問題を提起し、ダニエル・ベルヌーイ(1738年)がアカデミーの紀要に解決策を発表したことから都市名が付きました。ジョルラン(1987年)とマーティン(2004年)は、その後200年あまりにわたる論争の歴史を整理しています。

ベルヌーイの解決と期待効用理論

ダニエル・ベルヌーイ(1738年、英訳1954年)は、人は金額そのものではなく、その金額がもたらす「道徳的期待」すなわち効用を重視すると考え、富が増えるほど追加の金額の価値が小さくなる対数効用を提案しました。そうするとゲームの期待効用は有限になり、少額の参加費が合理的になります。クラメール(1728年)も書簡で似た着想を示していました。メンガー(1934年)は、賞金をもっと速く増やせば対数効用でもパラドックスが復活するため、効用は上に有界でなければならないと指摘しました。フォン・ノイマンとモルゲンシュテルン(1944年)はこの直観を公理化して期待効用理論を打ち立て、アロー(1974年)は有界効用の必要性を論じました。サミュエルソン(1977年)はこのパラドックスの歴史とさまざまな解決策を総合しました。

現代的解釈と応用

現実的な解決としては、支払う側の資力が有限であることや、ごく小さな確率を無視する傾向などが挙げられます。カーネマンとトヴェルスキー(1979年)のプロスペクト理論は、確率の重みづけと価値関数の形によってこれを説明する枠組みを提供します。デュランド(1957年)は、高成長企業の株価評価が遠い将来の巨大な収益に依存する点で、このパラドックスと同じ構造をもつと指摘しました。ヘイデンとプラット(2009年)は、実験参加者が平均よりも中央値に近い基準でゲームを評価すると報告し、ピーターズ(2011年)は、アンサンブル平均ではなく時間平均の成長率を用いれば効用の仮定なしにパラドックスが解けると主張しました。

よくある質問

サンクトペテルブルクのパラドックスを簡単に言うと?
計算上は期待賞金が無限大のコイン投げゲームなのに、人々は参加費として数百円程度しか払おうとしないという矛盾です。人は金額ではなく満足度で判断するという考え方の出発点になりました。
ベルヌーイの解決でパラドックスは完全に解けましたか?
いいえ。メンガーは賞金の構造を変えれば対数効用でもパラドックスが再び生じると指摘し、その後も有界効用、確率の重みづけ、時間平均など、さまざまな解決策が提案されています。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Bernoulli, D. (1738). Specimen theoriae novae de mensura sortis. Commentarii Academiae Scientiarum Imperialis Petropolitanae, 5, 175–192.
  2. Bernoulli, D. (1954). Exposition of a new theory on the measurement of risk (L. Sommer, Trans.). Econometrica, 22(1), 23–36.
  3. Cramer, G. (1728). Letter to Nicolas Bernoulli. Reprinted in D. Bernoulli (1738).
  4. Menger, K. (1934). Das Unsicherheitsmoment in der Wertlehre. Zeitschrift für Nationalökonomie, 5(4), 459–485.
  5. von Neumann, J., & Morgenstern, O. (1944). Theory of Games and Economic Behavior. Princeton, NJ: Princeton University Press.
  6. Samuelson, P. A. (1977). St. Petersburg paradoxes: Defanged, dissected, and historically described. Journal of Economic Literature, 15(1), 24–55.
  7. Arrow, K. J. (1974). The use of unbounded utility functions in expected-utility maximization: Response. Quarterly Journal of Economics, 88(1), 136–138.
  8. Jorland, G. (1987). The Saint Petersburg paradox 1713–1937. In L. Krüger, L. J. Daston, & M. Heidelberger (Eds.), The Probabilistic Revolution (Vol. 1, pp. 157–190). Cambridge, MA: MIT Press.
  9. Durand, D. (1957). Growth stocks and the Petersburg paradox. Journal of Finance, 12(3), 348–363.
  10. Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica, 47(2), 263–291.
  11. Hayden, B. Y., & Platt, M. L. (2009). The mean, the median, and the St. Petersburg paradox. Judgment and Decision Making, 4(4), 256–272.
  12. Peters, O. (2011). The time resolution of the St Petersburg paradox. Philosophical Transactions of the Royal Society A, 369(1956), 4913–4931.
  13. Martin, R. (2004). The St. Petersburg paradox. In E. N. Zalta (Ed.), Stanford Encyclopedia of Philosophy. Stanford, CA: Stanford University.

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。