起源と定義
ケインズ(1936年)はすでに、株式市場の評価が新たな投資の誘因に影響すると指摘していました。ブレイナードとトービン(1968年)、トービン(1969年)は、これを一般均衡の金融モデルのなかで「q」という比率として定式化しました。qは企業が持つ資本の市場価値を、その資本の再取得費用で割った値です。qが1を上回れば、市場が新たに設置される資本を費用より高く評価していることを意味するので、企業には株式を発行するなどして資金を調達し、投資を増やす誘因が生まれます。逆にqが1を下回れば、新しい設備をつくるより既存の資産を買い取るほうが安いため、投資は鈍ります。金融政策は資産価格を通じてqを動かし、それが投資に伝わることから、この理論は金融政策の波及経路の一つとしても扱われます。
限界qと平均q
投資決定にとって実際に重要なのは、資本を1単位追加したときの価値である「限界q」ですが、観察できるのは全体の市場価値を全体の再取得費用で割った「平均q」です。ルーカスとプレスコット(1971年)などの調整費用モデルを踏まえ、林文夫(1982年)は、企業がプライステイカーで、生産関数と調整費用関数が1次同次であるという条件のもとで、限界qと平均qが一致することを示しました。この結果によって、サマーズ(1981年)らは税制がqを通じて投資に及ぼす影響を実証的に分析できるようになりました。
実証研究と論争
qは企業価値の指標として、ファイナンスや産業組織の研究で広く使われています。リンデンバーグとロス(1981年)はqを市場支配力の尺度として用い、モーク、シュライファー、ヴィシュニー(1988年)は経営者の持株比率とqの関係を分析し、チョンとプルーイット(1994年)は計算しやすい近似式を提案しました。しかし実際の投資とqの関係は予想より弱く、ファザーリ、ハバード、ピーターセン(1988年)は内部キャッシュフローが投資を追加的に説明することから資金制約を強調しました。エリクソンとホワイテッド(2000年)は、この弱い関係の多くがqの測定誤差によるものだと考え、フィリッポン(2009年)は社債価格から推定したqのほうが投資をよく説明すると報告しました。ピーターズとテイラー(2017年)は、研究開発やブランドといった無形資本を再取得費用に含めるとqの説明力が高まることを示しました。この理論は効率的市場仮説やモジリアーニ=ミラー定理とともに、金融市場と実物投資を結ぶ中心的な枠組みとして研究されています。
よくある質問
- トービンのqを簡単に言うと?
- 市場が付ける企業の値打ちを、その企業の設備をいちから揃え直す費用と比べた比率です。1を上回れば投資が増え、下回れば減ると考えます。
- 限界qと平均qはどう違いますか?
- 限界qは資本をもう1単位増やしたときの価値で、平均qは全体の市場価値を全体の再取得費用で割った値です。林(1982年)は一定の条件のもとで両者が等しくなることを示しました。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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