概要
効率的市場仮説(efficient market hypothesis, EMH)は、金融市場の価格が情報をどれだけ速く正確に反映するかに関する仮説です。サミュエルソン(1965)は、正しく予想された価格は予測できないランダムな動きをすることを証明し、ファーマ(1970)はそれまでの実証研究を整理して「価格が利用可能な情報を常に完全に反映している市場」を効率的市場と定義しました。ファーマはこの業績で2013年にノーベル経済学賞を受賞しましたが、同じ年にこの仮説の代表的な批判者であるシラーも共同受賞しています。
3つの型
- ウィーク型:過去の価格や出来高の情報はすでに反映されています。チャートから将来の価格を予測するテクニカル分析では超過収益を得にくいという意味です。
- セミストロング型:財務諸表、開示、ニュースなどすべての公開情報が速やかに反映されます。公開情報を分析するファンダメンタル分析でも継続的な超過収益は難しいという意味です。決算発表直後の株価反応を調べるイベント・スタディが代表的な検証方法です。
- ストロング型:インサイダー情報を含むすべての情報が反映されます。インサイダー取引で利益を得る例があるため、ストロング型は一般に支持されていません。
ランダムウォークと投資への含意
新しい情報は予測できない形で届くため、効率的な市場では価格変化はランダムウォークに近い動きをします。この論理は、市場全体をそのまま保有するインデックスファンドのようなパッシブ運用の理論的根拠になりました。ただし、この仮説は「価格が常に正しい」という意味ではなく、利用可能な情報で価格の誤りを体系的に利用することはできないという意味である点に注意が必要です。
結合仮説問題
効率性を検証するには「正常な収益」を定める資産価格モデルが必要です。そのため超過収益が見つかっても、市場が非効率なのかモデルが間違っているのかを区別できません。ファーマ(1991)はこれを結合仮説問題と呼びました。
批判
- グロスマン=スティグリッツのパラドックス(1980):価格が情報を完全に反映するなら、費用をかけて情報を集める人はいなくなり、そうなると情報は価格に反映されません。したがって完全な効率性は不可能で、情報収集への報酬に見合う程度の非効率が残るとします。
- 過剰なボラティリティ:シラー(1981)は、株価がその後の配当の変化で正当化できるよりはるかに大きく変動することを示しました。
- アノマリーと行動ファイナンス:モメンタム、小型株効果、バブルと暴落は、投資家の心理的バイアスや裁定取引の限界で説明されることがあります。
現在では、市場が完全に効率的か非効率的かではなく、どの程度効率的かを問う方向で議論が続いています。分散投資の論理はポートフォリオ理論で扱います。
出典確認日:2026-10-16
参考文献
- Samuelson, P. A. (1965). Proof that properly anticipated prices fluctuate randomly. Industrial Management Review, 6(2), 41–49.
- Fama, E. F. (1970). Efficient capital markets: A review of theory and empirical work. Journal of Finance, 25(2), 383–417.
- Grossman, S. J., & Stiglitz, J. E. (1980). On the impossibility of informationally efficient markets. American Economic Review, 70(3), 393–408.
- Shiller, R. J. (1981). Do stock prices move too much to be justified by subsequent changes in dividends? American Economic Review, 71(3), 421–436.
- Fama, E. F. (1991). Efficient capital markets: II. Journal of Finance, 46(5), 1575–1617.