基本概念
ツェベリス(1995年)は、現状を変えるために同意が必要な行為者を拒否権プレイヤーと呼びました。憲法が定める大統領や議会の各院などは「制度的拒否権プレイヤー」、連立政権を構成する政党のように政治過程から生まれる行為者は「党派的拒否権プレイヤー」です。すべての拒否権プレイヤーが現状よりよいと考える政策の集合を「ウィンセット」といい、拒否権プレイヤーが多いほど、立場の違いが大きいほど、各行為者内部の結束が強いほど、ウィンセットは小さくなります。ウィンセットが小さいと現状を変えにくく「政策の安定性」が高まります。この理論は抑制と均衡や拒否権の議論をゲーム理論的な空間モデルに一般化したものです。
アジェンダ・セッターと制度比較
拒否権プレイヤーのうち、他の行為者に先に提案を示せる側をアジェンダ・セッターといいます。アジェンダ・セッターは他の拒否権プレイヤーが受け入れられる範囲のなかで自分に最も有利な案を選べるため、大きな力をもちます。ツェベリスは、議院内閣制では政府が、大統領制では主に議会がアジェンダ設定の権限をもつ傾向があると考えました。この枠組みを使えば、大統領制か議院内閣制かよりも、実際の拒否権プレイヤーの数と配置のほうが政策結果をよく説明すると主張します。イマーガット(1990年)の「拒否点」の概念も似た問題意識から生まれたもので、利益集団が阻止できる制度上の地点が多い国ほど医療保険改革が難しかったと分析しました。
実証研究と批判
ツェベリス(1999年)は、議院内閣制の国では拒否権プレイヤーが多いほど重要な労働関連法が少なくつくられると報告し、ツェベリスとチャン(2004年)は予算構成の変化の幅も拒否権プレイヤーの数と立場の違いで説明しました。マッキンタイア(2001年)は、アジア金融危機の際に拒否権プレイヤーが多すぎると政策が硬直し、少なすぎると政策が不安定になって投資家の信頼を失うと分析しました。ケーニヒ、デーブス、ツェベリス(2011年)は多くの民主国家の改革過程に理論を適用しました。批判者は、この理論が党内対立、世論、司法の役割などを十分に扱えず、拒否権プレイヤーの立場を測定するのが難しいと指摘します。それでもこの理論は新制度論政治学の代表的な分析道具として使われています。
よくある質問
- 拒否権プレイヤー理論を簡単に言うと?
- 政策を変えるのに必ず同意が必要な人や集団が多く、その考えが互いに異なるほど、政策は変わりにくいという理論です。大統領、議会、連立政党などの行為者を数え、立場の違いを測って制度を比較します。
- 拒否権プレイヤーが多いのは悪いことですか?
- 必ずしもそうではありません。政策が急に変わらないため安定性や予測可能性は高まりますが、危機に素早く対応したり必要な改革をしたりするのは難しくなります。少なすぎても政策が頻繁に揺れる問題が生じえます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Tsebelis, G. (1995). Decision making in political systems: Veto players in presidentialism, parliamentarism, multicameralism and multipartyism. British Journal of Political Science, 25(3), 289–325. 拒否権プレイヤー理論を初めて体系的に示した論文で、大統領制と議院内閣制を同じ枠組みで比較する発想の出発点を知りたいときに参考になります。
- Tsebelis, G. (1999). Veto players and law production in parliamentary democracies: An empirical analysis. American Political Science Review, 93(3), 591–608. 拒否権プレイヤーが多いほど重要な法律が少なくなるかを実証した研究で、理論の予測をデータで確かめるのに参考になります。
- Tsebelis, G. (2002). Veto Players: How Political Institutions Work. Princeton, NJ: Princeton University Press. 理論全体をまとめた代表的な著書で、政策の安定性やアジェンダ・セッターなどの中核概念を一度に理解したいときに役立ちます。
- Immergut, E. M. (1990). Institutions, veto points, and policy results: A comparative analysis of health care. Journal of Public Policy, 10(4), 391–416. 「拒否点」の概念で国ごとに医療保険改革の結果が異なった理由を説明しており、類似の先行概念と比べるのに参考になります。
- MacIntyre, A. (2001). Institutions and investors: The politics of the economic crisis in Southeast Asia. International Organization, 55(1), 81–122. 拒否権プレイヤーが多すぎても少なすぎても危機対応が悪くなるという分析で、理論の応用と限界を見るのに役立ちます。
- Tsebelis, G., & Chang, E. C. C. (2004). Veto players and the structure of budgets in advanced industrialized countries. European Journal of Political Research, 43(3), 449–476. 予算構成がどれだけ変わるかを拒否権プレイヤーで説明した研究で、政策の安定性を数値で測る方法がわかります。
- König, T., Debus, M., & Tsebelis, G. (Eds.). (2011). Reform Processes and Policy Change: Veto Players and Decision-Making in Modern Democracies. New York: Springer. さまざまな国の改革事例に理論を適用した編著で、多様な応用研究をまとめて見たいときに参考になります。
