ATP:筋肉のエネルギー通貨
筋収縮に直接使われるエネルギーは、ATPがADPとリン酸に分解されるときに放出されます。筋肉に蓄えられたATPは数秒分しかないため、体は三つのエネルギー系によってATPを絶えず再合成しています。
三つのエネルギー系
- ATP-PCr(ホスファゲン)系:クレアチンリン酸(PCr)がADPにリン酸を渡し、ATPを即座に再合成します。最も速いものの、主に約10秒の最大努力(100m走、重量挙げ)で中心となります。
- 解糖系(乳酸系):グルコースやグリコーゲンを酸素なしでピルビン酸に分解してATPを生み、速い速度では乳酸が生じます。数十秒から約2分の高強度運動(400m走)で重要です。
- 有酸素(酸化)系:ミトコンドリアが酸素を使って糖質と脂肪(必要ならタンパク質)を完全に酸化します。遅いものの容量が非常に大きく、マラソンや歩行のような長時間の活動を支えます。
各系の相互作用
以前の教科書では各系が次々に切り替わるように描かれていましたが、ガスティン(2001)は、ほぼすべての活動で三つの系がすべて寄与しており、最大運動で無酸素と有酸素の寄与が等しくなるのは1〜2分の間、おそらく約75秒で、従来考えられていたより早いと結論づけました。
乳酸閾値とEPOC
- 乳酸閾値:血中乳酸が急激に蓄積し始める運動強度で、持久力トレーニングの強度設定に使われます。乳酸は単なる疲労物質ではなく、燃料として再利用されることもあります。
- EPOC(運動後過剰酸素消費):PCrの再合成、乳酸の処理、体温やホルモンの回復のため、運動後もしばらく酸素摂取量が高い状態が続く現象です。
有酸素・無酸素運動と健康
有酸素運動は心肺持久力と脂肪酸化能力を高め、無酸素運動(レジスタンストレーニング、高強度インターバル)は筋力、パワー、筋量を高めます。両者を組み合わせると、インスリン感受性の改善などを通じてメタボリックシンドロームの予防に役立つことが知られています(McArdle et al., 2015)。
参考文献
- Gastin, P. B. (2001). Energy system interaction and relative contribution during maximal exercise. Sports Medicine, 31(10), 725–741.
- McArdle, W. D., Katch, F. I., & Katch, V. L. (2015). Exercise Physiology: Nutrition, Energy, and Human Performance (8th ed.). Philadelphia: Wolters Kluwer Health/Lippincott Williams & Wilkins.