登場の背景
ハリー・マーコウィッツ(1952年)のポートフォリオ理論の上に築かれたウィリアム・シャープ(1964年)の資本資産価格モデル(CAPM)は、単一の市場ポートフォリオに対する感応度であるベータによって期待収益率を説明しました。しかしCAPMは、投資家が平均と分散だけを考慮するという仮定と、観察できない「真の市場ポートフォリオ」に依存しており、リチャード・ロール(1977年)はそのためCAPMを適切に検証するのは難しいと批判しました。スティーブン・ロス(1976年)は、はるかに弱い仮定から出発する代替案を示しました。投資家の効用関数や市場ポートフォリオを特定せず、収益率がいくつかのファクターによって生成されるという統計的構造と、裁定機会がないという条件だけから価格付けの関係を導いたのです。
理論の構造
APTは、各資産の収益率が、期待収益率、複数の共通ファクターの予期せぬ変化に対する感応度とそのショックの積、そして資産固有のノイズから成ると仮定します。資産が十分に多ければ、よく分散されたポートフォリオでは固有ノイズが消え、ファクター・リスクだけが残ります。このとき、ファクターへのエクスポージャーが同じなのに期待収益率が異なる2つのポートフォリオがあれば、一方を買って他方を売ることでリスクなしに利益を得られるため、裁定機会がないためには「期待収益率=無リスク金利+Σ(ファクター負荷×ファクター・リスク・プレミアム)」という線形関係が成り立たなければなりません。ヒューバーマン(1982年)はこの議論を簡潔に整理し、チェンバレンとロスチャイルド(1983年)は厳密なファクター構造を緩めた「近似ファクター構造」へと理論を一般化しました。APTがファクターの中身を教えてくれない点は、長所でもあり限界でもあると指摘されています。
実証研究とファクター・モデルの発展
ロールとロス(1980年)は統計的因子分析によって、米国株の収益率に3~4個の価格付けされたファクターが存在するという結果を報告しました。チェン、ロール、ロス(1986年)は、鉱工業生産の伸び率、予期せぬインフレ、信用スプレッド、期間スプレッドといったマクロ経済変数をファクターとして用い、システマティック・リスクが報われるという結果を得ました。シャンケン(1982年)は、有限個の資産では価格付けの誤差の大きさを厳密に定められないため、APTの検証可能性には限界があると批判しました。コナーとコライチク(1986年)は大規模な資産集合からファクターを抽出する方法を示しました。ファーマとフレンチ(1993年)の3ファクター・モデルやカーハート(1997年)のモメンタムを加えたモデルは、厳密にはAPTとは異なる実証的動機を持ちますが、APTのマルチファクターの枠組みの中で解釈されることがよくあります。ハーヴェイ、リュウ、ジュー(2016年)は、数百ものファクターが報告されている「ファクター動物園」の問題を指摘し、多重検定を考慮したより厳しい基準を提案しました。
よくある質問
- APTを簡単に言うと?
- 株式の収益率は景気、インフレ、金利といった複数の共通リスクの影響を受け、ただ飯がないのなら各リスクへのさらされ方に応じて報酬が決まるという理論です。
- CAPMとの違いは何ですか?
- CAPMは市場ポートフォリオという単一のファクターと強い均衡の仮定を用いますが、APTは複数のファクターを認め、裁定機会がないという弱い条件だけから価格付けの関係を導きます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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