錯体と配位子
錯体は、中心金属イオンと、非共有電子対をもつ分子やイオン(配位子)とが結合したものです。供与部位が一つの配位子は単座配位子(NH₃、H₂O)、複数のものは多座配位子と呼ばれ、多座配位子がつくる環状の錯体は、カニのはさみを意味するギリシャ語からキレートと呼ばれます(Morgan & Drew, 1920)。
キレート効果
[Ni(en)₃]²⁺の安定度定数は[Ni(NH₃)₆]²⁺よりはるかに大きくなります。一つの多座配位子が複数の水分子を追い出すため、自由な粒子の数が増え、エントロピーが増大するからです。五員環と六員環が最も安定です。
代表的なキレート剤と用途
- EDTA:六座配位子。Ca²⁺/Mg²⁺の滴定(水の硬度)、鉛中毒の治療、食品の保存に用いられます。
- 医療:ヒ素や水銀にはジメルカプロール(BAL)、鉄過剰症にはデフェロキサミン。
- 環境:キトサンのようなアミンに富む高分子は重金属と結合し、廃水から除去します(吸着と脱アセチル化を参照)。
- 生体:ヘモグロビンのヘムは鉄をキレートしたポルフィリンで、クロロフィルはマグネシウムをキレートしています。
参考文献
- Morgan, G. T., & Drew, H. D. K. (1920). Researches on residual affinity and co-ordination. Part II. Journal of the Chemical Society, Transactions, 117, 1456-1465.
- Schwarzenbach, G. (1952). Der Chelateffekt. Helvetica Chimica Acta, 35(7), 2344-2359.
- Housecroft, C. E., & Sharpe, A. G. (2018). Inorganic Chemistry (5th ed.). Pearson.
- Flora, S. J. S., & Pachauri, V. (2010). Chelation in metal intoxication. International Journal of Environmental Research and Public Health, 7(7), 2745-2788.