概要
スマートフォンの普及により、オンラインとオフラインの商取引の境界はあいまいになりました。この変化を説明する代表的な概念がO2O(Online to Offline)とオムニチャネルです。O2Oは主に顧客をサービスにつなぐ仕組みを、オムニチャネルは小売企業のチャネル統合戦略を指す点で焦点が異なります。
O2Oの概念
O2Oという言葉は、TrialPay創業者のアレックス・ランペルが2010年8月のTechCrunch寄稿で初めて使いました。彼はグルーポンやOpenTableのように、オンラインで顧客を見つけて決済を受け、レストランやスパなどの実店舗へ送るビジネスを「online2offline」コマースと呼びました。決済がオンラインで行われるため広告効果を正確に測定でき、オフライン消費はオンラインよりはるかに大きいため成長余地が大きいと考えました。フードデリバリー、配車、宿泊・美容予約アプリが典型的なO2Oサービスです。逆に店舗での体験がオンライン購入につながる流れをOffline to Onlineと呼ぶこともあります。
マルチチャネル・クロスチャネル・オムニチャネル
- マルチチャネル:店舗、カタログ、ウェブサイトなど複数のチャネルを運営するが、在庫・価格・顧客情報はチャネルごとに別管理です。
- クロスチャネル:オンラインで注文し店舗で受け取るなど、チャネル間を部分的に連携させます。
- オムニチャネル:すべてのチャネルを一つの顧客体験に統合します。リグビー(2011)はデジタルと物理的体験を融合するこの形をオムニチャネル小売と呼び、ブリニョルフソンら(2013)は技術によってオンラインと実店舗の区別が消え、世界が「壁のないショールーム」になると論じました。
フェルフーフ、カンナン、インマン(2015)は、マルチチャネルがチャネルごとに成果を管理するのに対し、オムニチャネルはチャネルと顧客接点全体をまとめて管理し、顧客体験と全体の成果を最適化する点が異なると整理しました。
ショールーミングとウェブルーミング
- ショールーミング:店舗で商品を確かめ、購入はより安いオンラインで行う行動です。
- ウェブルーミング(逆ショールーミング):オンラインで情報を調べてから店舗で購入する行動です。
オムニチャネル戦略はこうしたチャネル移動を止めるのではなく、どのチャネルで買っても同じ企業にとどまってもらうことを目指します。消費者の購買意思決定の過程全体をチャネルの視点から設計し直すことだといえます。
基盤技術
- スマートフォンと位置情報サービス:近くの店舗情報やクーポンをリアルタイムで提供します。
- ビーコン(Bluetooth Low Energy信号)とNFC:店内の顧客に合わせた情報を送ったり決済を処理したりします。
- モバイル決済と統合された会員・在庫システム:チャネル間の決済・ポイント・在庫をつなぎ、CRMデータが中核資源になります。
課題と論点
O2Oプラットフォームはネットワーク効果によって市場が集中しやすく、加盟店の手数料や配達員・運転手の労働条件が社会的な争点になりました。位置・購買情報の収集に伴うプライバシー問題、デジタル機器に不慣れな高齢者の情報格差も指摘されています。オムニチャネルには在庫・物流・情報システムの統合に大きな投資が必要で、チャネル別の成果評価や部門間の対立を調整する課題もあります。
参考文献
- Rampell, A. (2010, August 7). Why Online2Offline commerce is a trillion dollar opportunity. TechCrunch.
- Rigby, D. (2011). The future of shopping. Harvard Business Review, 89(12), 64–75.
- Brynjolfsson, E., Hu, Y. J., & Rahman, M. S. (2013). Competing in the age of omnichannel retailing. MIT Sloan Management Review, 54(4), 23–29.
- Verhoef, P. C., Kannan, P. K., & Inman, J. J. (2015). From multi-channel retailing to omni-channel retailing: Introduction to the special issue on multi-channel retailing. Journal of Retailing, 91(2), 174–181.