概念と背景
顧客関係管理(CRM)は、個々の顧客に関する情報を収集・分析し、それをもとに顧客との関係を長期的に管理する戦略です。市場が成熟し競争が激しくなるにつれ、一度売って終わる取引型マーケティングよりも、既存顧客を維持するリレーションシップ・マーケティングのほうが収益性が高いことが多いと認識されました。情報技術の進歩で大規模な顧客データベースを扱えるようになり、CRMは1990年代に広く普及しました。マーケティング・ミックスが「何をどう売るか」を問うのに対し、CRMは「誰とどのような関係を保つか」を問います。
中核となる考え方
- 顧客生涯価値(CLV):顧客が関係全体を通じてもたらす利益の現在価値です。CRMはCLVの高い顧客に資源を集中します。
- 維持とロイヤルティ:新規顧客の獲得は通常、既存顧客の維持より費用がかかるため、離反を減らし、再購買・クロスセル・紹介を増やすことが主な目標です。
- 顧客セグメンテーション:購買履歴と収益性で顧客を分け、ランクごとに異なる特典を提供します(航空マイル、会員ランクなど)。
CRMのプロセスと種類
ライナルツ、クラフト、ホイヤー(2004)はCRMプロセスを関係の開始、維持、終了として概念化し、これらを実行する企業の業績がやや高いことを示しました。収益性のない関係を終わらせることも管理の対象に含まれる点が特徴です。
- オペレーショナルCRM:営業・マーケティング・サービスなど顧客接点の業務を自動化します。
- 分析CRM:データウェアハウスとデータマイニングで顧客行動を分析し、離反を予測します。
- 協働CRM:コールセンター、ウェブ、店舗などのチャネルや部門が顧客情報を共有できるようにします。
戦略的フレームワーク
ペインとフロウ(2005)はCRMを技術プロジェクトではなく全社的な戦略ととらえ、五つの部門横断的プロセスを示しました:①戦略開発、②価値創造、③マルチチャネル統合、④情報管理、⑤業績評価。顧客に提供する価値と企業が得る価値(CLV)がともに高まる必要があります。
成功要因と限界
CRMは、経営トップの関与、顧客中心の文化、良質なデータ、従業員の参加がそろうと成功します。反対に、ソフトウェアを導入するだけだったり、過剰に顧客へ連絡したり、個人データを不注意に扱って信頼を失ったりすると失敗しやすくなります。満足の形成については期待不一致理論とサービス品質と真実の瞬間、紹介の効果については口コミ・マーケティングを参照してください。
関連項目: 統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC)、O2Oとオムニチャネル
参考文献
- Payne, A., & Frow, P. (2005). A strategic framework for customer relationship management. Journal of Marketing, 69(4), 167–176.
- Reinartz, W., Krafft, M., & Hoyer, W. D. (2004). The customer relationship management process: Its measurement and impact on performance. Journal of Marketing Research, 41(3), 293–305.