概要
社会的判断理論(social judgment theory)は、トルコ出身のアメリカの社会心理学者ムザファー・シェリフとイェール大学のカール・ホヴランドが、1961年の『社会的判断:コミュニケーションと態度変化における同化効果と対比効果』で示した理論です。重さや明るさを判断するとき最初に経験した基準がその後の判断に影響するという精神物理学の知見を、社会的な態度に応用しました。人はメッセージを客観的に評価するのではなく、自分の立場(アンカー)と比べて判断するということです。
3つの範囲
- 受容範囲:自分が受け入れられると考える立場の範囲で、最も好ましい立場もここに含まれます。
- 非関与範囲:賛成も反対もしない中間的な立場の範囲です。
- 拒否範囲:受け入れられないと考える立場の範囲です。
説得はメッセージが受容範囲や非関与範囲に入るときに起こりやすく、拒否範囲に入ると効果がないか、かえって元の立場を強めるブーメラン効果が生じることがあります。
自我関与
キャロリン・シェリフ、ムザファー・シェリフ、ネバーゴール(1965)は、争点が自分のアイデンティティや価値観とどれだけ密接かを表す自我関与を重視しました。関与の高い人は拒否範囲が広く非関与範囲が狭いため、たいていの反対メッセージを拒否します。関与の低い人は非関与範囲が広く、説得の余地が大きくなります。
同化効果と対比効果
- 同化効果:受容範囲内のメッセージは、実際より自分の立場に近く感じられます。
- 対比効果:拒否範囲のメッセージは、実際より遠く極端に感じられます。
同じ記事を見ても立場の異なる人々がそれぞれ「偏っている」と感じる現象は、このゆがみで説明されることがあり、確証バイアスともつながります。
説得への示唆
理論によれば、一度に大きな変化を求めるより、相手の受容範囲の縁をねらって少しずつ立場を動かす漸進的な戦略が効果的です。メッセージが近すぎれば変えるものがなく、遠すぎれば拒否されるため、中程度の食い違いが最も大きな態度変化を生むと考えます。また、まず聞き手の関与の度合いを把握する必要があります。
限界
3つの範囲を測定する方法が煩雑であること、メッセージの内容や論拠の質よりも立場間の距離だけに焦点を当てていることが批判されています。論拠の質と処理ルートを扱う精緻化見込みモデル、態度が意図や行動につながる過程を扱う合理的行為理論、態度と行動の不一致を扱う認知的不協和理論とあわせて見ると理解が深まります。
出典確認日:2026-10-16
参考文献
- Sherif, M., & Hovland, C. I. (1961). Social Judgment: Assimilation and Contrast Effects in Communication and Attitude Change. New Haven, CT: Yale University Press.
- Sherif, C. W., Sherif, M., & Nebergall, R. E. (1965). Attitude and Attitude Change: The Social Judgment-Involvement Approach. Philadelphia: W. B. Saunders.
- Petty, R. E., & Cacioppo, J. T. (1986). Communication and Persuasion: Central and Peripheral Routes to Attitude Change. New York: Springer-Verlag.