概要
合理的行為理論(theory of reasoned action, TRA)は、アメリカの社会心理学者マーティン・フィッシュバインとアイセック・エイゼンが1975年の『信念、態度、意図、行動』で体系化し、1980年の『態度の理解と社会的行動の予測』でまとめた理論です。態度だけでは行動をうまく予測できないという問題意識から、態度と行動の間に行動意図を置きました。ここでいう「合理的」とは、人が常に正しく判断するという意味ではなく、手持ちの情報にもとづいて比較的体系的に行動を決めるという意味です。
モデルの構造
- 行動に対する態度:その行動がもたらす結果についての信念(どのくらい起こりそうか)と、その結果の評価(良いか悪いか)を掛け合わせて足したものとみなします(期待・価値アプローチ)。
- 主観的規範:家族・友人・同僚など重要な他者が自分にその行動を望んでいると信じる程度(規範的信念)と、その人たちの意向に従おうとする動機を掛け合わせて足したものです。
- 行動意図:態度と主観的規範にそれぞれ重みをつけた和で決まり、意図が行動を予測します。
このモデルは、測定の際に行為・対象・文脈・時間を具体的にそろえるほど予測力が高まるという「対応の原理」を重視します。シェパードら(1988)のメタ分析は、多くの研究で意図と行動の間にかなりの関連があると報告しました。
計画的行動理論への拡張
TRAは、意志で完全にコントロールできる行動にしかうまく当てはまらないという限界がありました。禁煙したいと思っても実際には難しいようにです。エイゼン(1991)はここに知覚された行動コントロール、つまりその行動をするのがどれだけ易しいか難しいかという感覚を加え、計画的行動理論(theory of planned behavior, TPB)を示しました。知覚された行動コントロールは意図に影響し、実際のコントロール力をよく反映している場合は行動にも直接影響します。これはバンデューラの自己効力感に近い概念です。
応用
消費者行動論では購買意図やブランド選択を、保健分野では運動・禁煙・検診などの健康行動を、情報システム分野ではTRAをもとにしたデイヴィス(1989)の技術受容モデル(TAM)を通じて新技術の受け入れを説明します。購買の意思決定過程については消費者の購買意思決定と衝動買いも参照してください。
批判
習慣や衝動のように深く考えずに行う行動や、感情の役割をうまく説明できず、意図と実際の行動の間のギャップ(意図・行動ギャップ)も残ります。態度がどう変わるかは精緻化見込みモデルや社会的判断理論と、態度と行動が食い違うときの心理は認知的不協和理論とあわせて読むと理解が深まります。
出典確認日:2026-10-16
参考文献
- Fishbein, M., & Ajzen, I. (1975). Belief, Attitude, Intention, and Behavior: An Introduction to Theory and Research. Reading, MA: Addison-Wesley.
- Ajzen, I., & Fishbein, M. (1980). Understanding Attitudes and Predicting Social Behavior. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.
- Sheppard, B. H., Hartwick, J., & Warshaw, P. R. (1988). The theory of reasoned action: A meta-analysis of past research with recommendations for modifications and future research. Journal of Consumer Research, 15(3), 325–343.
- Ajzen, I. (1991). The theory of planned behavior. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 50(2), 179–211.
- Davis, F. D. (1989). Perceived usefulness, perceived ease of use, and user acceptance of information technology. MIS Quarterly, 13(3), 319–340.