ジェンナーからmRNAまで
10世紀ごろから中国やインド、オスマン帝国では天然痘患者のうみを少量植える「人痘法」が行われ、1721年にメアリー・ワートリー・モンタギューがイギリスに紹介しました。1796年、イギリスの医師エドワード・ジェンナーは牛痘にかかった乳しぼりの女性が天然痘にかかりにくいことに着目し、少年ジェームズ・フィップスに牛痘を接種して1798年に結果を発表しました。日本では1849年に牛痘苗が長崎に伝わり、緒方洪庵らが種痘所を広めました。「ワクチン」は雌牛(vacca)に由来し、1881年にパスツールがジェンナーをたたえてすべての予防接種をこう呼ぶよう提案しました。1955年のソークのポリオ不活化ワクチン、1960年代の麻疹ワクチンが続き、WHOの集中的な接種によって1980年に天然痘は根絶されました。2020年には、カリコとワイスマンの研究を土台にしたmRNAワクチンが1年足らずで新型コロナワクチンとして登場しました。
仕組みと種類
ワクチンは実際の感染なしに、免疫系に病原体の「顔」を見せます。するとB細胞が抗体を作り、T細胞や記憶細胞ができて、本物の病原体が入ってきたときにずっと速く強く反応できます。十分多くの人が免疫を持つと感染の連鎖が断たれ、接種できない乳児や患者まで守られます。これが集団免疫で、麻疹のように感染力の強い病気では約95%の接種率が必要です。HPVワクチンのように、感染を防いでがんを予防するワクチンもあります。
| 種類 | 仕組み | 例 |
|---|---|---|
| 生ワクチン | 弱毒化した生きた病原体 | MR、水痘、BCG |
| 不活化ワクチン | 殺した病原体 | A型肝炎、日本脳炎 |
| 組換えタンパク・サブユニット | 病原体の一部のたんぱく質 | B型肝炎、HPV |
| トキソイド | 毒素を無毒化 | 破傷風、ジフテリア |
| mRNA・ウイルスベクター | 抗原の設計図を細胞に届ける | 新型コロナワクチン |
安全性と誤解
副反応の多くは接種部位の痛み、微熱、だるさなどで1〜2日で治まります。アナフィラキシーのような重いアレルギーは100万回に数件程度とまれで、接種後15〜30分は経過を観察します。1998年にアンドリュー・ウェイクフィールドがMMRワクチンと自閉症の関連を主張した論文は不正が判明し、2010年に『ランセット』が撤回しました。数百万人を対象とした研究でも関連はないという結果が繰り返し示されています。WHOは2019年に「ワクチン忌避」を世界の健康に対する10大脅威の一つに挙げました。2024年の『ランセット』の分析は、過去50年で予防接種が約1億5,400万人の命を救ったと推計しています。接種スケジュールや注意点は医師や自治体の案内で確認してください。
この記事は一般的な健康情報であり、診断や治療に代わるものではありません。症状が続く場合は医師に相談してください。
よくある質問
- ワクチンを打っても病気にかかりますか?
- かかることはあります。100%防げるワクチンはありませんが、重症化や死亡のリスクを大きく下げます。インフルエンザワクチンのように流行株が変わるため毎年打つ必要があるものもあります。
- 複数のワクチンを同時に打っても大丈夫?
- 多くのワクチンは同時接種しても安全で、効果も落ちないとする研究が多くあります。ただし一部の生ワクチンどうしは間隔が必要なので、医療者の指示に従ってください。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Jenner, E. (1798). An Inquiry into the Causes and Effects of the Variolae Vaccinae. London: Sampson Low.
- Pasteur, L. (1880). De l'atténuation du virus du choléra des poules. Comptes Rendus de l'Académie des Sciences, 91, 673–680.
- Salk, J. E. (1953). Studies in human subjects on active immunization against poliomyelitis. JAMA, 151(13), 1081–1098.
- Fenner, F., Henderson, D. A., Arita, I., Ježek, Z., & Ladnyi, I. D. (1988). Smallpox and Its Eradication. Geneva: World Health Organization.
- Plotkin, S. A. (2014). History of vaccination. PNAS, 111(34), 12283–12287.
- Karikó, K., Buckstein, M., Ni, H., & Weissman, D. (2005). Suppression of RNA recognition by Toll-like receptors: The impact of nucleoside modification. Immunity, 23(2), 165–175.
- Polack, F. P., et al. (2020). Safety and efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine. New England Journal of Medicine, 383(27), 2603–2615.
- Taylor, B., Swerdfeger, A. L., & Eslick, G. D. (2014). Vaccines are not associated with autism: An evidence-based meta-analysis. Vaccine, 32(29), 3623–3629.
- Shattock, A. J., et al. (2024). Contribution of vaccination to improved survival and health: Modelling 50 years of the Expanded Programme on Immunization. The Lancet, 403(10441), 2307–2316.
