国際収支とは
国際収支(balance of payments)は、一定期間に一国の居住者と非居住者の間で行われたすべての経済取引を体系的に記録したものです。現在の国際基準であるIMFのBPM6(2009)では、大きく3つに分かれます。
- 経常収支:貿易収支、サービス収支、第一次所得収支(賃金・配当・利子)、第二次所得収支(移転)
- 資本移転等収支:資本移転、特許権など非生産・非金融資産の取引
- 金融収支:直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資、外貨準備
複式簿記の原理で記録されるため全体の合計は原則としてゼロになり、統計上の差は誤差脱漏として扱われます。そのため「国際収支の黒字」という場合は、ふつう経常収支など特定の項目の黒字を指します。
古典派:価格・正貨流出入メカニズム
デイヴィッド・ヒュームは1752年の「貿易差額について」で、金本位制のもとでの自動調整を説明しました。貿易黒字国には金(正貨)が流入して通貨量と物価が上がり、赤字国からは金が流出して物価が下がります。すると黒字国の輸出は減り赤字国の輸出は増えるので、国際収支はひとりでに均衡に戻るという考えです。これは貿易黒字を積み上げるべきだとする重商主義への批判でもありました。
弾力性アプローチ
為替レートが変化したとき輸出入の数量がどれだけ反応するかに注目します。自国通貨の切り下げで経常収支が改善するには、輸出需要と輸入需要の価格弾力性の和が1より大きくなければならないというマーシャル=ラーナー条件が中心です。短期には契約済みの数量がすぐには変わらないため、切り下げ直後は収支がかえって悪化し、時間がたってから改善します。これをJカーブ効果と呼びます。
アブソープション・アプローチ
アレクサンダー(1952)はケインズの国民所得恒等式から出発し、経常収支=国民所得-国内アブソープション(消費+投資+政府支出)ととらえました。切り下げだけでは不十分で、生産を増やすか国内支出を減らさなければ赤字は改善しないことを強調します。
マネタリー・アプローチ
1970年代にジョンソンやフレンケルらは、国際収支を貨幣的な現象とみなしました。固定相場制のもとで通貨供給が国内の貨幣需要を上回ると、余った貨幣が海外への支出として流れ出て赤字が生じ、外貨準備の変動を通じて調整されるという説明です。
国際貸借説と為替レート
イギリスのゴッシェンは1861年の『外国為替の理論』で、為替レートは一国の対外債権・債務、すなわち国際的な貸借関係から生じる外貨の需要と供給で決まると論じました。これを国際貸借説といい、国際収支から為替レートを説明する初期の理論です。ただし貸借関係がなぜ変化するのかは説明できないという限界があり、その後購買力平価説などとともに為替レート決定理論へと発展しました。
限界
各アプローチは経済の一側面だけを強調しています。現在は資本移動が大きく、金融収支の流れが為替レートや経常収支に大きく影響するため、複数のアプローチを組み合わせて見るのが一般的です。貿易パターンそのものは比較優位の理論とあわせて見ると理解しやすくなります。
出典確認日:2026-10-16
参考文献
- Hume, D. (1752). Of the balance of trade. In Political Discourses. Edinburgh: A. Kincaid & A. Donaldson.
- Goschen, G. J. (1861). The Theory of the Foreign Exchanges. London: Effingham Wilson.
- Alexander, S. S. (1952). Effects of a devaluation on a trade balance. IMF Staff Papers, 2(2), 263–278.
- Frenkel, J. A., & Johnson, H. G. (Eds.). (1976). The Monetary Approach to the Balance of Payments. London: George Allen & Unwin.
- International Monetary Fund. (2009). Balance of Payments and International Investment Position Manual (6th ed., BPM6). Washington, DC: IMF.