概要
ニーズ・アセスメント(needs assessment)とは、地域や対象集団にどのようなニーズがどれほどあるかを体系的に把握し、政策やプログラムの目標と資源配分の根拠とする過程です。イギリスの社会政策学者ジョナサン・ブラッドショー(Jonathan Bradshaw)は、1972年に『ニュー・ソサエティ』(New Society)に発表した「社会的ニーズの概念」で、ニーズを誰がどのような根拠で定義するかによって四つに区分しました。個人の心理的動機を扱う欲求理論やマズローの欲求階層とは異なり、ブラッドショーの分類は社会政策においてニーズを測定し判断する基準に関するものです。
ブラッドショーの四つのニーズ
- 規範的ニーズ(normative need):専門家や行政が定めた基準(例:最低生活費、栄養基準)を下回るときに存在するニーズです。客観的に見えますが、基準は時代や専門家の価値観によって変わり、パターナリズムに陥ることもあります。
- 感得されたニーズ(felt need):本人が自ら望み、必要だと感じるニーズです。質問紙や面接で把握しますが、期待水準や情報の不足によって実際より大きくも小さくも現れます。
- 表明されたニーズ(expressed need):感得されたニーズが、サービスの申請や待機者名簿のように実際の行動(需要)として現れたものです。測定は容易ですが、サービスを知らない人や利用しにくい人のニーズは抜け落ちます。
- 比較ニーズ(comparative need):似た特性をもつ他の集団や地域はサービスを受けているのに、ある集団は受けていないときに明らかになるニーズです。地域間の公平性の判断に役立ちますが、比較対象のサービス水準が適切だという保証はありません。
類型の組み合わせ
ブラッドショーは、四つの基準がすべて満たされるとき実際のニーズが存在する可能性が最も高いとし、各類型の有無を組み合わせてニーズの状態を分析しました。たとえば専門家の基準を下回っている(規範的)のに本人が必要を感じていない場合には教育や広報が、本人が必要を感じている(感得された)のに申請しない場合にはアクセスの改善が課題になります。一つの類型だけで判断すると歪みが生じるため、複数の視点を併用するのが原則です。
ニーズ・アセスメントの方法
- キーインフォーマント調査:公務員、ソーシャルワーカー、地域のリーダーなど地域の事情に詳しい人から意見を聞きます。迅速で安価ですが、情報提供者の偏りが反映されることがあります。
- 地域フォーラム(公聴会):住民が集まり問題やニーズを直接語ります。参加を促しますが、声の大きい集団の意見が過大に代表されることがあります。
- サービス利用統計の分析(rates under treatment):機関の利用記録や待機者名簿を分析します。表明されたニーズの把握に適しています。
- 社会指標の分析:人口・所得・失業・健康などの統計といった二次資料から規範的ニーズや比較ニーズを推計します。
- 調査(地域住民調査):住民の標本に質問紙調査を行い、感得されたニーズを把握する最も体系的な方法です。設計と標本抽出は社会福祉調査の過程に従い、費用と時間がかかります。
実践での活用
ニーズ・アセスメントは、地域福祉実践の過程における問題確認の段階であり、プログラム企画の出発点です。ウィトキンとアルトシュルド(Witkin & Altschuld)は、ニーズを「現在の状態と望ましい状態との差」ととらえ、事前評価・データ収集・優先順位決定という段階的な手順を示しました。アセスメントの結果は、サービスの優先順位、対象の選定、サービス提供体制の改善の根拠となります。
関連項目: ロスマンのコミュニティ実践モデル
参考文献
- Bradshaw, J. (1972). The concept of social need. New Society, 19(496), 640–643.
- Bradshaw, J. (1972). A taxonomy of social need. In G. McLachlan (Ed.), Problems and Progress in Medical Care: Essays on Current Research, 7th Series (pp. 71–82). London: Oxford University Press.
- Witkin, B. R., & Altschuld, J. W. (1995). Planning and Conducting Needs Assessments: A Practical Guide. Thousand Oaks, CA: Sage.