歴史
1923年、米ワシントン大学のエドガー・アレンとエドワード・ドイジーは、ブタの卵胞液をラットに注射すると発情周期が現れることを示し、卵巣ホルモンの存在を初めて証明しました。1929年にはドイジーとドイツのアドルフ・ブーテナントがそれぞれ妊婦の尿からエストロンを結晶として分離し、1930年代には最も強力なエストラジオールが特定されました。1942年に妊娠した馬の尿から得た「プレマリン」が更年期治療薬として承認されてホルモン療法が広まり、1960年に承認された経口避妊薬もエストロゲンとプロゲスチンの組み合わせです。
体内での働き
エストロゲンは思春期の乳房の発達や月経周期を促し、排卵前に子宮内膜を厚くします。骨をつくる細胞を助けて骨密度を保ち、血管をしなやかにして閉経前の女性の心血管病リスクを下げ、肌のコラーゲンや膣の粘膜、脳の記憶や気分にも影響します。男性でもテストステロンの一部がアロマターゼという酵素でエストラジオールに変わり、骨や精子形成に使われます。閉経でエストロゲンが急に減ると、ほてり・不眠・膣の乾燥といった更年期症状とともに骨粗しょう症のリスクが高まり、逆にエストロゲンで増殖する子宮内膜症は閉経後に軽くなるのが一般的です。
ホルモン補充療法の論争と現在
2002年、米国の女性健康イニシアチブ(WHI)研究は、エストロゲン+プロゲスチン併用で乳がん・心筋梗塞・脳卒中・血栓のリスクが増えたと発表し、世界のHRT処方は半分近くまで急減しました。その後の再解析で参加者の平均年齢が63歳と高かったことが指摘され、60歳未満または閉経後10年以内に始めれば利益がリスクを上回ることが多いという「タイミング仮説」が支持を得ます。現在は北米閉経学会などが、症状の強い人に個別のリスクを検討したうえで最小有効量を使うよう勧めています。大豆イソフラボンなどの植物性エストロゲンは作用が弱く個人差も大きいため、治療の代わりにはなりません。
この記事は一般的な健康情報であり、診断や治療に代わるものではありません。症状が続く場合は医師に相談してください。
よくある質問
- エストロゲンが不足するとどんな症状が出ますか?
- ほてり、寝汗、不眠、膣の乾燥、月経不順、気分の変化が代表的で、長期的には骨密度が下がります。若いうちに月経が止まった場合は必ず受診しましょう。
- 大豆を食べるとエストロゲンが増えますか?
- 大豆イソフラボンはエストロゲンに似た弱い作用をもつだけで、体内のエストロゲンそのものを増やすわけではありません。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Allen, E., & Doisy, E. A. (1923). An ovarian hormone: preliminary report on its localization, extraction and partial purification, and action in test animals. JAMA, 81(10), 819–821.
- Writing Group for the Women's Health Initiative Investigators (2002). Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women. JAMA, 288(3), 321–333.
- The 2022 hormone therapy position statement of The North American Menopause Society. Menopause, 29(7), 767–794.
