概要
アメリカの教育心理学者ロバート・ガニェは、1965年の『学習の条件』で、学習が成立するには学習者内部の条件と外部の条件の両方が必要だと考えました。彼は情報処理モデルをもとに学習の内的過程を段階的に整理し、それぞれを支える教師の働きかけを9つの教授事象(events of instruction)として示しました。のちに『インストラクショナルデザインの原理』で体系的な授業設計の中核的な枠組みとなりました。
9つの事象と学習の内的過程
- 学習者の注意を喚起する – 注意:質問、絵、意外な事実などで関心を引きます。
- 学習目標を知らせる – 期待:授業の後に何ができるようになるかを伝えます。
- 前提条件を思い出させる – 長期記憶から作業記憶への検索:関連する既有知識を呼び起こします。
- 新しい事項を提示する – 選択的知覚:特徴がよくわかるように新しい内容を示します。
- 学習の指針を与える – 意味的符号化:例、比喩、図式などで意味のある形で記憶できるよう助けます。
- 練習の機会をつくる – 反応:学習者に実際にやってみさせます。
- フィードバックを与える – 強化:正しかったか、どう直すかを伝えます。
- 学習の成果を評価する – 検索と強化:追加の手がかりなしで遂行させ、学習を確認します。
- 保持と転移を高める – 一般化:復習と新しい場面への応用で長く記憶し活用できるようにします。
指導案では、1–3を導入、4–7を展開、8–9をまとめとしてまとめることが多いです。
5つの学習成果
ガニェは学習成果を言語情報、知的技能(弁別・概念・ルール・高次ルール)、認知的方略、運動技能、態度の5つに分類しました。同じ9事象でも、目標とする学習成果によって各段階の具体的な方法は変わります。たとえば態度の学習では尊敬する人物によるモデリングが、運動技能では反復練習とフィードバックが重要です。
活用と評価
9教授事象は指導案、eラーニング教材、企業研修の設計で広く使われ、ADDIEモデルの設計・開発段階ともよくかみ合います。学習意欲を扱うケラーのARCSモデルを注意の喚起の段階に組み合わせることもあります。一方で、教師中心の客観主義的設計で順序が固定的だという批判があり、構成主義の立場からは学習者が自ら意味を構成する活動が不足していると指摘されます。ガニェ自身も、すべての授業に9事象を順番どおり入れる必要はないと述べています。
参考文献
- Gagné, R. M. (1965). The Conditions of Learning. New York: Holt, Rinehart and Winston.
- Gagné, R. M. (1985). The Conditions of Learning and Theory of Instruction (4th ed.). New York: Holt, Rinehart and Winston.
- Gagné, R. M., Wager, W. W., Golas, K. C., & Keller, J. M. (2005). Principles of Instructional Design (5th ed.). Belmont, CA: Thomson/Wadsworth.