概要
エドウィン・ロックは1968年の論文「課業動機づけと誘因の理論に向けて」で、人の意識的な目標と意図が課業遂行を調整すると主張しました。金銭、賞賛、競争といった誘因も、目標と意図を通じて行動に影響するというのです。その後ゲイリー・レイサムとともに数百の研究をまとめ、1990年に『目標設定と課業遂行の理論』を刊行しました。動機づけ理論のうちの過程理論に属し、実務への応用性が最も高い理論の一つとされます。
中心命題
- 目標の困難度:能力の範囲内であれば、目標が難しいほど成果は高くなります。
- 目標の具体性:「ベストを尽くせ」のような漠然とした目標より、「今月新規顧客20人」のような具体的で困難な目標の方が高い成果を生みます。
作用メカニズム
ロックとレイサム(2002)は、目標が成果を高める4つの経路を整理しました。
- 方向づけ:目標に関連する活動に注意と努力を集中させ、無関係な活動を減らします。
- 努力:困難な目標ほど多くの努力を引き出します。
- 持続:時間がかかってもあきらめずに続けさせます。
- 課題方略:目標を達成するために関連する知識や方略を探し、開発させます。
調整変数
- 目標コミットメント:目標を重要だと感じ、達成できると信じるとき(高い自己効力感)効果が大きくなります。目標設定への参加や公の約束はコミットメントを高めることがあります。
- フィードバック:進捗を知らせるフィードバックがあってこそ、努力や方略を調整できます。
- 課題の複雑性:複雑で新しい課題では、高い成果目標がかえって方略の探索を妨げることがあり、まず学習目標(方略を身につける目標)を立てる方が効果的です。
- 能力と状況の制約:能力や資源が不足すると、困難な目標の効果は弱まります。
実務への応用:SMART目標と目標管理
ジョージ・ドラン(George T. Doran)は1981年、よい目標の条件をSMART、すなわち具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、担当者を明確にできる(Assignable)、現実的(Realistic)、期限がある(Time-related)として示しました。今日ではAを達成可能(Achievable)と読み替えることが多くなっています。目標設定理論は、ドラッカーの目標管理(MBO)、業績管理制度、OKRなどの理論的基盤となりました。ブルームの期待理論とあわせてみると、目標は努力の方向を決め、期待と誘意性は努力の大きさを説明すると整理できます。
批判
オルドニェスら(Ordóñez et al., 2009)は「暴走する目標」で、過度に具体的で困難な目標は視野を狭め、リスクテイクや非倫理的行動を助長し、学習や内発的動機づけを損なうおそれがあると警告しました。測定可能な目標ばかりを強調すると、測りにくい質的な成果がおろそかになるという指摘もあります。したがって目標は挑戦的であると同時に、倫理基準、学習目標、公正な評価(公平性)とあわせて設計する必要があります。
参考文献
- Locke, E. A. (1968). Toward a theory of task motivation and incentives. Organizational Behavior and Human Performance, 3(2), 157–189.
- Doran, G. T. (1981). There's a S.M.A.R.T. way to write management's goals and objectives. Management Review, 70(11), 35–36.
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (1990). A Theory of Goal Setting and Task Performance. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717.
- Ordóñez, L. D., Schweitzer, M. E., Galinsky, A. D., & Bazerman, M. H. (2009). Goals gone wild: The systematic side effects of overprescribing goal setting. Academy of Management Perspectives, 23(1), 6–16.