背景
第二次世界大戦後の日本の自動車市場は小さく需要も多様で、フォード式の大量生産をそのまま真似ることはできませんでした。トヨタ自動車の大野耐一は、売れた分だけ棚を補充するアメリカのスーパーマーケットに着想を得て、1950〜70年代に在庫とムダを最小化する生産体系を磨き上げました。1973年の石油危機で他社より早く回復したことで注目され、大野は1978年の著書(英語版1988年)でこれをまとめました。多車種を少量ずつつくる方式で、生産工程の類型のうち反復・ライン生産に柔軟性を加えたものといえます。
二本柱
- ジャスト・イン・タイム(JIT):必要な部品を必要なときに必要な量だけ供給し、在庫を最小化します。後工程が必要な分だけ前工程から引き取るプル方式で、その情報を伝える札がかんばんです(Sugimori et al., 1977)。
- 自働化:にんべんのついた「働」の字で「人の知恵をつけた自動化」を表します。不良や異常が起きれば機械が自ら止まるか、作業者がアンドンのひもを引いてラインを止め、原因を解決してから再開します。創業者豊田佐吉の自動織機に由来します。
七つのムダ
大野は顧客価値を生まないすべての活動をムダとみなし、①つくりすぎ、②手待ち、③運搬、④加工そのもの、⑤在庫、⑥動作、⑦不良をつくるムダの七つに分類しました。なかでもつくりすぎは他のムダを覆い隠すため最悪のムダだとしました。在庫という「水」を下げると問題という「岩」が現れる、というたとえが有名です。
カイゼンと現場の道具
- カイゼン:現場の作業者が小さな改善を絶えず積み重ねることです。今井正明(1986)は、大きな革新と対比される日本の競争力の核心として紹介しました。真因を探る「なぜを5回」が代表的な方法です。
- 平準化:車種と量を均等に混ぜて生産量の波をなくします。
- ポカヨケ:ミスそのものが起こらないよう工夫した仕掛けです。
- 5S:整理・整頓・清掃・清潔・しつけで、ムダが目に見える職場をつくります。
- 標準作業:タクトタイム、作業順序、標準手持ちを定め、改善の基準とします。
リーン生産への広がりと限界
MITの国際自動車研究プログラム(IMVP)のウォマック、ジョーンズ、ルース(1990)はTPSを「リーン生産」と名づけ、大量生産の半分の人員・スペース・在庫でより高い品質を実現すると報告しました。その後リーンは製造業を超えて病院、ソフトウェア(リーン・スタートアップ、アジャイル)、サービス業へ広がり、シックスシグマ・TQMと結びついた「リーン・シックスシグマ」も生まれました。しかしJITは協力企業との緊密な信頼を前提とするため、地震やパンデミック、半導体不足でサプライチェーンが途切れると脆さが表れ、協力企業に在庫負担を押し付けるとの批判や労働強化の問題も指摘されました。トヨタは2011年の東日本大震災後、重要部品の在庫を増やすなど方式を補いました。
関連項目: 科学的管理法(テイラー)
参考文献
- Ohno, T. (1988). Toyota Production System: Beyond Large-Scale Production. Cambridge, MA: Productivity Press.
- Sugimori, Y., Kusunoki, K., Cho, F., & Uchikawa, S. (1977). Toyota production system and Kanban system: Materialization of just-in-time and respect-for-human system. International Journal of Production Research, 15(6), 553–564.
- Imai, M. (1986). Kaizen: The Key to Japan's Competitive Success. New York: Random House.
- Womack, J. P., Jones, D. T., & Roos, D. (1990). The Machine That Changed the World. New York: Rawson Associates.