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遺伝と環境の論争

🧠 心理学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
ひとことで言うと、遺伝と環境の論争は、知能・性格・行動などの人間の特性が生まれ持った遺伝(氏)で決まるのか、育つ中で経験する環境(育ち)でつくられるのかをめぐる長年の論争です。今日では、どちらか一方ではなく両者が互いに影響し合うという相互作用論が定説です。
目次
  1. 1. 論争の背景
  2. 2. 二つの立場
  3. 3. 双生児・養子研究と遺伝率
  4. 4. 相互作用のしかた
  5. 5. 今日の結論
  6. 6. 参考文献

論争の背景

「氏と育ち」(nature and nurture)という表現は、フランシス・ゴルトンが『イギリスの科学者たち:その氏と育ち』(1874)で広めました。ゴルトンは、優れた才能が家系に沿って受け継がれるという家系研究から遺伝説を主張しました。反対側には、心を白紙(タブラ・ラサ)と見たロックの経験論の伝統と、健康な乳児を12人与えてくれればどんな専門家にでも育ててみせると豪語したワトソンの行動主義がありました。知能検査得点の集団差、教育政策、犯罪の原因といった社会問題と絡み合い、この論争は長く政治的にも激しいものでした。

二つの立場

  • 遺伝説(成熟説):発達は遺伝的に定められた計画に沿って展開すると考えます。ゲゼルの成熟説、チョムスキーの言語獲得装置、気質研究がこちらに近い立場です。
  • 環境説(学習説):発達は経験と学習の結果だと考えます。行動主義、社会的学習理論、文化や養育スタイルを重視する研究が代表的です。

双生児・養子研究と遺伝率

行動遺伝学は、遺伝子を100%共有する一卵性双生児と約50%共有する二卵性双生児、養子と生物学的親・養親を比較して、遺伝と環境の寄与を推定します。

  • ミネソタ離別双生児研究:ブシャールら(1990)は、生後すぐに離れて育った一卵性双生児でも、知能や性格、興味が驚くほど似ていると報告し、知能の分散の約70%が遺伝的差異と関連すると推定しました。
  • メタ分析:ポルダーマンら(2015)は、50年間の双生児研究の約1万8千の特性を総合し、平均遺伝率が約49%であると報告しました。遺伝と環境がほぼ半々に寄与していることになります。
  • 遺伝率の意味:遺伝率とは、特定の集団の中で個人差の分散のうち遺伝的差異で説明される割合です。一人の人の特性の何%が遺伝かという意味ではなく、環境が変われば値も変わります。

プロミンら(2016)は、すべての心理的特性に相当な遺伝の影響がある一方で100%遺伝する特性はなく、きょうだいが共有しない非共有環境が大きな役割を果たすことを、行動遺伝学で繰り返し確認された知見として挙げています。

相互作用のしかた

  • 遺伝子と環境の相互作用:同じ環境でも遺伝型によって効果が異なります。カスピら(2002)は、虐待を受けた男児のうちMAOA遺伝子の活性が低い型でのみ、反社会的行動のリスクが大きく高まることを報告しました。
  • 遺伝子と環境の相関:遺伝が環境を選ぶこともあります。親が自分の傾向に合った環境を与えたり(受動的)、子どもの気質が周囲の反応を引き出したり(誘発的)、子どもが自ら合う環境を求めたり(能動的)します。
  • エピジェネティクス:栄養やストレスなどの経験が、DNA配列を変えずに遺伝子の発現をオン・オフすることがあります。
  • 反応範囲:遺伝が可能な範囲を定め、環境がその中で実際の水準を決めるという説明もあります。

今日の結論

現代の発達心理学は「遺伝か環境か」ではなく「遺伝と環境がどのように共に作用するか」を問います。知能や性格のように遺伝率の高い特性も教育や環境への介入で変わり得るし、環境の効果もまた個人の遺伝的特性によって異なります。発達段階ごとの理論は児童発達理論で扱っています。

関連項目: 生殖工学(人工授精・体細胞クローン)

参考文献

  1. Galton, F. (1874). English Men of Science: Their Nature and Nurture. London: Macmillan.
  2. Bouchard, T. J., Jr., Lykken, D. T., McGue, M., Segal, N. L., & Tellegen, A. (1990). Sources of human psychological differences: The Minnesota Study of Twins Reared Apart. Science, 250(4978), 223–228.
  3. Caspi, A., McClay, J., Moffitt, T. E., Mill, J., Martin, J., Craig, I. W., Taylor, A., & Poulton, R. (2002). Role of genotype in the cycle of violence in maltreated children. Science, 297(5582), 851–854.
  4. Polderman, T. J. C., Benyamin, B., de Leeuw, C. A., Sullivan, P. F., van Bochoven, A., Visscher, P. M., & Posthuma, D. (2015). Meta-analysis of the heritability of human traits based on fifty years of twin studies. Nature Genetics, 47(7), 702–709.
  5. Plomin, R., DeFries, J. C., Knopik, V. S., & Neiderhiser, J. M. (2016). Top 10 replicated findings from behavioral genetics. Perspectives on Psychological Science, 11(1), 3–23.

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この記事は2026年10月15日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。